第19話 新たな事件


 今出来る彼への対策もこれくらいだろう。後は彼が彼自身の体験談を流布しないことを願うばかりだ。


「ぱいっ、先輩! 大変な事態が発生しました! 先日の海龍ほどではないんですが、普通に驚くべきことです!」


 最近はやけに事件が多いな。まさかとは思うが、一応誰が起こしたのかだけ聞いておこう。


「因みに誰が起こしたんだ? もう流石に件の彼は良いだろう、我々も流石に彼一人だけには構っていられないぞ?」


「え? 彼に決まってるじゃないですか、むしろ誰がいると思ったんですか? 彼が来る前はそもそも問題発生という事態すらあまり起こっていませんでしたけど」


「そ、そうだな」


 そりゃそうか。彼以外あり得ないよなそりゃ、それくらい私も知っていたさ。だが現実逃避くらいさせてくれよ。もう、彼一人のせいでどれだけの仕事量が増えたものか考えてみて欲しい。


 まあ、ただ(楽しんでいるかどうかは分からないが)プレイしているだけの彼に何か言うことも責めることも出来ない。出来ないのは分かっているが、愚痴の一つは言わせて欲しいものだ。


「それで、事件とは一体どんなものなんだ? 海龍よりもマシというだけでは規模感が伝わらんぞ」


「その事件についてなんですが、件の彼がなんと……暗殺ギルドに登録したのです!」


「え………… えっ!?」


 暗殺ギルド、それは街の裏路地にひっそりと佇んでおり、表社会には決して出てこない存在である。


 市民の安全を第一に考え、存在が知れ渡ってしまえばパニックとなるような危険度MAX事件を処理したり、王族や爵位の高い貴族の護衛など、様々な仕事を秘密裏に遂行している。


 そんな暗殺ギルドに普通の駆け出しプレイヤーが入れるとは到底考えられない。だがそう、もう彼は普通ではなくなったのだ。彼ならば暗殺ギルドに入っていてもおかしくはないかもしれない。


 いや、だがそれでも彼が普通ではないことを差し引いても暗殺ギルドに入ることは難しいはずだ。暗殺ギルドに入るにはそのギルドの一員か暗殺ギルドを知っている人に紹介してもらわなければならいない。


 だが、ギルドの一員はともかく、暗殺ギルドを知っている存在はとても数が少なく、それこそギルドマスターや王族、一部の貴族しか知らない。彼が、そんなお偉いさんから口利きをしてもらえるとは到底考えられない。


 でもそうなるとギルドの一員に口利きをしてもらわないといけないことになり、それはそれでかなり厳しいように思う。知り合いでもなければ、何の実績もない人をおいそれと勝手に入れるような人はギルドにはいないだろうしな。


 ってことはいよいよ謎だな。彼は一体どうやってギルドに登録したんだ?


「ふふふ、彼は一体どうやってギルドに登録したんだ? っていう顔をしていますね。では今から説明しますね。その方法も驚くべきものなんですが、なんと、彼はギルドの受付の人に直談判をして入れてもらったようです」


「え? 直談判?」


「そうです、直談判をしたのです。しかもかなりの熱意を持って。それに対して受付の人は最初は相手にしませんでしたが、徐々に彼の熱意にやられ、遂には折れることとなったのです。

 しかし、それだけで入れるほど甘くはなく、彼には試練を与えることになったです」


「試練?」


「そう、試練です。その内容は彼と受付の男性の一騎打ちでした」


「一騎打ち?」

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