第17話 修羅の道
「……先輩、緊急事態です。今までの比にならないくらいの事態が発生しました。もしかしたら海龍さえも可愛く見えてくるほどです。聞きますか?」
なっ、彼の事件はこれで終わりじゃないのか? ってか、海龍が可愛く見えるってどんな事態なんだ? それだけでもうただ事じゃないのが分かる。もう聞きたくない、せめて一日は欲しいぞ、もう、もう休みたい、休ませてくれよ。
でも、聞くしかないだろう。後輩がその事実を知っているのに私だけが現実逃避しても仕方あるまい。後輩も私が聞くことを知った上で覚悟を決める準備の時間をくれたのだろう。
だが、それが逆に重いぞ。それほどの覚悟がいるってことなのだろう、もう寧ろサラッと言ってくれたほうが良かったな。後輩はこの気持ちを私にさせたかったのだろうか。
よし、もういい。この調子だといつまで経っても聞くことが出来ないままだからな。
「いいぞ、聞かせてくれ」
「分かりました、では報告します。彼がなんと、修羅の道、を発現しました」
「なっ!?」
修羅の道、それは我々が半分享楽で作ったようなもので、このゲームのやり込み要素となっている。スキル、称号の効果が高まり、取得経験値も増加するシステムになっている。
この道は本当に修羅である。これを発現するにはSP100が必要で、それに使ってしまうと当然ステータスに割り振ることが出来なくなってしまう。その為、かなりの勇気が必要になる。
ただ、取得経験値も増加するため長い目で見ると結果的にプラスになるはずだ。さらにスキルの効果も上がるためステータスの低さはある程度補えるはずだ。
もし、この修羅の道を最初から知っていたら、SP100を真っ先に貯める人もいるかもしれない。ただ、普通ではそんなことはありえない。何故なら、貯まった瞬間に使う人が大半だろうし、一度に沢山もらえることなんて、殆どないからだ。
「まさか、こんな序盤で手に入れてしまうとは……まさかっ!?」
「その様子だと先輩も気付かれてしまったようですね、彼の特異性に」
そうだ、彼は特殊なのだ。普通、たとえSP100が貯まって修羅の道を発動させても、その後は普通にステータスに割り振るだろう。
ただ、彼の場合は違う。ステータスを上げるためにSPを使わなくていい、そう死ねばいいのだ、死ぬだけで良いのだ。つまり、これからもSPは消費されることなく、第二、第三と……
恐ろしい、恐ろしすぎる。万が一、億が一にもありえないが、もし仮にこれら全ての彼の行動が全てを把握した上での行動だった場合、そして、遅れたスタートを取り戻し、更に差をつけるための最短ルートであった場合、考えるだけでも恐ろしい。
もし、NSO攻略チャートなるものが晒された場合には一瞬で終わる。しかも例え偶然だとしてもそれは可能なのだ。ということは、このゲームの運命は彼に握られているのか?
「流石にこればっかりは何か抜本的な解決策を用意しなければいけないな」
「私もそう思います。前回の発現者同様、専属監視をつけますか?」
「そうだな、それはマストだろう。それに加えて何か有効な対策手段について、一度みんなで話し合おう」
久しぶりに全体で集まっての緊急会議を開いた。話し合いは夜通し行われたが、この日は結局何もいい案は出ないまま、お開きとなってしまった。
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