第16話 ハス


 海龍を何故これほど早く倒すことが出来たのか、これはもう理解した。だが、まだまだ確認したいことはある。例えば海龍を倒した結果、彼がどれほどのステータスを手に入れてしまったのか、とても気になる。


 後輩の言う、新たな事件にはまだ向き合わなくてもいいだろう。確認するにしてももう少し落ち着いてからにしたい。こっちにも準備ってものがあるのだ。


 然るべき事件には然るべき準備をしなければ、私の胃が荒波に揉まれることになってしまうからな。というわけで、一先ず彼のステータスを確認しよう。


「彼のステータスは今、どうなっているんだい?」


「実は、それこそが正に新しい事件のことなんですが、まず、彼が圧倒的な格上である海龍を倒したことで、膨大な経験値を獲得し、大幅にレベルが上がりました。

 そして、海龍を倒したことで、龍神の加護から祝福へと称号が変化し、龍の討伐者という称号を獲得しました。これは龍化という強力なスキルを取得できるものになります。

 もうすでにこれだけでもかなり凄く、彼自身も相当強化されているのですが、まだまだ彼は称号を獲得しているのです」


 なんてことだ。肩慣らしに事の顛末を軽く聞いただけなのに、もう、其自体が大きな事件だったなんて、彼はもう本当に何者なんだ? SSZSに愛されてるどころの話じゃないだろ。


 まず、レベルアップはまだいいんだ、普通のことだからな。それに他の人も地道に上げることで取り返せるからな。ただ、その他の称号に関しては、龍化とか強すぎはしないか? 


 始めたばかりの彼にこれ程強力なスキルが渡ってしまうとは……もしかしたらこれだけで第二、第三の街に行けてしまうんじゃないか? 龍神の加護も祝福になって更に強くなってるし、


 いや、ダメだ。こんなところで現実逃避したって変わらない、しっかりと現実を受け止めよう。


「ほ、他にも色々獲得しているんだろう? 詳細を教えてくれ……」


「っ! 分かりました、では一つ一つ説明していきます。まず一つ目ですが、生身という称号です。ぱっと見の印象では弱そうですが、効果は危険察知というスキルの取得になります」


 危険察知、これは我々も良く知るスキルである。いわゆる店売りスキルって言われるものだ。SSZSによるものだけでなく、お金を払うことで買えるスキルも勿論ある。そのスキルは我々が作ったから、よく知っているのだ。


 効果は、その名の通り危険察知。そのプレイヤーの強さに応じて危険の度合いが変わってくるが、こちら側で危険と判断する驚異が近づいてきた場合、反応するようになっている。序盤から終盤まで使えるかなり万能スキルだ。


 切り札級の強力スキルから、冒険者なら必須とも言われる万能スキルまで揃えてくるとは、それに汎用性のある格闘技スキル。もう、かなり構成は完成しているな。今すぐに冒険に出てもなんら問題の無い、というかすぐに頭角を現しそうだ。


 こんなにも良すぎるスタートダッシュを決めることなんて普通はあり得ない。みんな地道な作業を通して強くなっていくものだ。だが彼はそれを一っ飛びにするかのような所業、しかも、地道な作業もしているのだから何も非がないのだ。


「ぱい、んぱい! 先輩!! まだこれだけじゃありませんよ、彼はずっと連続して攻撃していたことで蓮撃、というスキルも手に入れております。何故この漢字にしたのかは分かりませんが、これは連続して攻撃すればするほど威力上昇ですから、これもかなり強力かと思われます」


 蓮撃、蓮といえば仏教では知性や慈悲の象徴ともされている。さらに綺麗な水では小さな花しか咲かず、汚い泥水であればあるほど、大きな花を咲かすという。


 何故か、この蓮のイメージと彼の存在がぴったりと重なるような気がした。

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