第15話 事件と対応と事件


 つまり、彼が海龍と今現在も戦えているのは、称号と彼の全く育っていないステータスが原因だったってことか。


 ひとまず、原因が判明して良かった。原因が分からないという事が一番怖いからな。だが、それと同時にこの彼の行いは誰にも止められない、ということも判明してしまった。


 彼は一切の不正をしておらず、特にバグも発生していないのだ。彼を止める手立ても理由もない。しかし、これを受けて対応をする必要がある。


 まずは、イベントエリアそのものだが、これは取り急いで何かをする必要がある訳ではない。そもそも、あのイベントエリア自体、一周年記念イベント用に作られた物であるため、代わりのエリアを用意する為の時間は沢山ある。


 まあ、次は流石に完成しても、入れるようにはしないだろう。今回のように何が起こるか分からないし、無駄なトラブルの種は潰しておくべきだ。


 そもそも何故解放していたかについては、あまり聞かないで欲しいが、絶対に見つけられない自信がそうさせたのだろう。まあ、見つかっても大丈夫だったのだが、こんなにも早く見つかって、表舞台に一切出ず、一個人によって見つけられるとは誰が考えたのだろうか。


 続いてからが本題だ。彼に関する対応についてだ。こちらは幾つかの対応方法があるのだが、まず一つは謝罪文を送ってこの件を無しにするといった方法だ。これが一番楽ではあるのだが、プレイヤーの権利や、我々が干渉すること等を考慮すると、決して行いたくない方針だ。


 次の方法は、経験値等の設定を変更することだ。これをすれば極端に彼が強くなってしまうことは避ける事が出来るし、我々の介入も表面化しない。だが、これをするにしても、なんらかの強さには影響しない形で補償した方が良さそうだ。


 そして、最後は何もしないことだろう。プレイヤーが自由にのびのび好きな事をする事を謳っているのに、我々が介入する事でその根幹を揺らがせてしまうことになる。それは我々の指針的にも避けたいところだ。


 この中の選択肢で一番どれがいいかを少し話し合った方がいいな。流石にこれだけのことを私一人で決めるのはよくないし、するにしても、皆のコンセンサスが欲しい。


「なあ、この件につ


「せ、先輩、先輩っ! 彼がとうとう海龍を倒してしまいました! そして、また新たな事件が起きてしまいました!」


 そんなに喋った内容は多くないし、情報量は多くないはずなのに何故か頭がクラクラする。なんだ、なんなんだ彼は、彼は一体何者なんだ?


「ふぅーーー」


 コーヒーを飲み、一旦落ち着く。問題が発生してそれが重大であればあるほど一旦落ち着く事が大切だ。重大の問題なのに、気が動転している状態ではまともな行動なんて出来ないし、たとえ行動を起こせたとしてもそれは解決しているとは言えないだろう。


 よし、では問題を一個ずつ処理して行こう。


 まず、彼はなんでこんなにも早く海龍を倒せたんだ? 彼のおよその攻撃力と武器を参照しても到底こんなに早く倒せるとは思わないんだが。例え、武器を手に入れていたとしても、彼が手に入れられて、装備出来るものは限られてくる。


「ちょっと一旦落ち着こうか、まずそもそも彼はなぜこんなにも早く倒せたんだい? 彼が死なないのは良く分かったが、それは早く倒せることと同義ではないだろう」


「はい、その件についてなんですが、どうやら彼は武器を使用しておらず、素手で攻撃していたようです。そしてその結果格闘技というスキルを獲得していました。

 格闘技は武器を持てない分、強めの威力が出るようになっており、まともな武器を持てない彼からすると、結果的に火力が高まってしまった、というところでしょう」


 格闘技か……それにしてもまた地味なスキルだな。物好きが使ってくれればいいくらいにしか思っていなかったが、まさか序盤に使うと下手に武器を使うよりも火力が出るなんてな。


 もう、驚くのも、心配するのも疲れてきた。ここまできたらなるようになれって感じだな。

 

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