第13話 不死疑


「せ、先輩! まだ彼が死んでいません!!」


「えっ? なんだって?」


「ま、まだ彼が死んでおらず、今もなお海龍リヴァイアサンと応戦中で!」


「ほ、本当に!? 何故まだ生き残れているんだ? そんなに彼はPSが高いのかい? いや、高いと言っても、流石に始めたてのプレイヤーが敵う相手では無いだろう」


「そ、そっ、それが、なんと海底神殿へ入った際に称号を複数獲得したようでして……」


「はぁ!?」


 おいおいおい、流石にそれはやり過ぎだろ。本当にSSZSは彼の事を気に入っているみたいだな。おかしいよ、しかもそれで海龍に応戦出来るってどれだけのチート称号なんだい?


「まっ、まあ、一旦落ち着こう。それで彼はなんという称号を獲得したんだい? それによっちゃあ、修正も視野に入れないといけなくなるな……」


 また、仕事が増えてしまうな……


「いえ、それが称号自体はそれほどでもなく、それぞれ、湖底の探索者と龍神の加護、という名前なんです。前者がいわゆる根性系といいますか、自分のHPよりも大きいダメージを食らったら1だけ残って耐えるという効果で、後者はスキルと称号の効果を増幅させるといった効果になります」


 あれ? 思ったよりというか、全然チートスキルじゃ無い? もっと強力な効果がくると思っていたんだが、何故それで海龍といまだに戦えるほど強くなっているんだ?


「何故、という顔をしてますね。私もこの効果を知った時は、何故、という疑問が真っ先に出て来ました。これでは到底海龍に対抗出来るわけはない、と。ですが、今も見て分かる通り、彼は戦っています。

 その理由を探るべく、私は戦闘映像をリアルタイムで追って見ることにしました。どんな戦い方をして、死を免れているのか、それを直接見た方がいいと思ったからです。

 なんと衝撃的なことに、その映像を見ると、彼は普通にリヴァイアサンの攻撃を平然と受けていたのです。しかも、何度も何度も」


 は? 攻撃を躱しているのではなく、何度も何度も食らっているというのか? どうしてまだ戦えているのだ? もうとっくに死んでいるのではないか?


「それは、湖底の探索者の効果による根性が発動した、では説明がつかないな」


「そうなんです。私が目にしたのが一回であればその説明でまだ済むのです。しかし、彼は何度も何度も攻撃を受けているのです。それに、まだ回復するところも見ていませんし、そもそも彼が回復薬を買ったところすら見ていません」


 彼女はSSZSの産みの親であるため、SSZSのお気に入りになったプレイヤーを徹底的に観察し、研究している。そう、まるで子供の好みを全力で知ろうとする母親のように。その彼女が言うのだから、本当に回復薬を飲んでも買ってもいないのだろう。だが、


「そういえば、彼はキノコマスターと言う称号を持っていなかったか? それを使って、回復するキノコを大量に持ち込み回復薬代わりにしているのでは?」


「私もその線を考えました。ですがそれはいくつかの観点から否定されます。まず一つ目は、彼は常に攻撃し続けていること。二つ目は、彼が毒キノコで死に終わった後は一切キノコを採っておらず、キノコの数がそんなにないであろうと言うこと。そして三つ目は、そもそも回復の効能を持つキノコは始まりの街近辺には殆ど生息していないということ、です。万が一会ったとしても、それはごく僅かであり、キノコで回復している線は薄いです」


 彼女はこの短時間でよくこれだけのことを調べ上げたな。素直に感服するほどだ。しかし、それでは一体どうやって彼は死なずに戦っていると言うのだ?

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