第12話 家族の力


 海龍リヴァイアサン、それはイベント用として配置されたモンスターでありながら、龍の名を冠する強者である。イベントであるからLv.100に設定されており、他の龍と比べて、決して強いわけでも無い。ただ、それでも龍であり、海底神殿を守っている守護者である。


 この世界の他の龍に比べると、誰でも参加出来るイベントで倒される運命さだめにあるため、劣ってしまうのは仕方のないことであった。それでも、龍としての威厳、自負を背負いながら、いつかはやって来る最後の時を、ただ待つ存在であった。


 そんな龍の下に一人の招かれざる客が一人来訪してしまったことは、もしかしたら、龍にとっては思いがけない幸運であったのかもしれない。


「っぱい、先輩、せ、ん、ぱ、い! 人の話聞いてますか? 急にトリップしちゃうのやめて下さいよ、せめて私の報告が終わってからにして下さいよね!」


 はっ、私は何をしていたのだろう。後輩から彼が海底神殿に到達したことを聞いて、さらにリヴァイアサンがいることを聞いて、胃が心配になって、その後の記憶が無いな。私はどうなっていたのだろうか。


 そ、それより、すっかり海龍の存在を失念していた。あれは流石に彼でも勝つことが出来る相手では無いだろうし、一方的にやられてしまうだけになるだろう。ただ、今までの流れで、ゾンビアタックでもされたら、万が一のことがあるかもしれない。大変だ、これは今すぐ策を講じる必要がある。


「す、すまない。それより、流石にこれは看過出来ないぞ。あの駆け出しのプレイヤーがゾンビアタックで格上を倒して、急成長するのは流石にまずい。本人にとっても、周りのプレイヤーにとっても良いことは無いからな。もう既に入ってしまったのは仕方ないとして、もう入れないように、そのフィールドを隔離するんだ。もう二度と入れないようにな。出口はしっかり作っておけよ?

 頑張って見つけた彼には非常に申し訳ないが、後でしっかり説明と、補償をしよう。内容はまた後で考えるとして、今は、この存在が明るみに出ることを防ごう。彼や私達が非難され、最悪燃えるかもしれないからな。慎重に対応してくれ!」


 私は慌てて、スタッフ達に指示を出した。本当に申し訳ないのだが、こればっかりはゲームのバランスを考えた時によろしく無いからな。それに、ゲームの存続に関わるしね。


 因みに、燃えるというのは、ゲームの運営の不手際やミスでゲームバランスが崩れ、激しく糾弾された後にゲームから人が離れていくことを言う。


 フルダイブのVRが実装された当初は製作者側も気づかぬバグや欠陥があって、そのせいで大きくゲームバランスが崩れたことが多々あった。最近は少なくなってきたが、完全に無くなった訳ではない。だからこそ、我々も充分に注意をしなければいけないのだ。


「すまない、せっかく君が報告してくれたというのに、君をそっちのけに指示を出してしまった。これは一刻を争うことだと思ったんだ、ほんと


「いえ、大丈夫です。私も先輩の立場ならそうしてますし、もし先輩がそうしなかったら、そう提案してましたよ。迅速な対応、流石でした」


 私は、本当に優秀な仲間達を持ったのだと思う。後輩もいつもはうるさいが、こういう有事の際は非常に頼りになるし、今、大急ぎで作業している。技術スタッフもみんな凄腕ばかりだ。私なんかが上にいても良いものかと、助けられる度にいつも思うが、だからこそ、私に出来ることを精一杯頑張ろうと思える。


 ここにいるチームは、本当に第二の家族と言っても過言じゃない。それほどの信頼感があるし、強い絆で結ばれている。


「フィールドの隔離終わりました!」

「出口の確保終わりました!」

「彼宛のメッセージも準備整いました!」


 本当に私は恵まれている。感謝しかないな。この感謝の気持ちは、これからの行動で示していかないとな。


「よくやった! 皆、お疲れ様! 後は、彼が死に戻った後にメッセージを送ったら、一旦落ち着けるな、本当にありがとう。補償については私が粗方考えておくから、安心してくれ。もしかしたら意見は聞くかもしれないけどね」


 ふう、これで後は彼が死ぬだけだな。あれだけ死なないでと彼に願っていたのに、今度は死ぬことを望むとは、皮肉だし、本当に私は勝手だな。だが、その願いももうじき叶う。今回はチームの団結力を再認識できたから良かったな。よし、ちょっと休憩でもするか。


「せ、先輩! まだ彼が死んでいません!!」

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