第11話 湖底の探索者


「先輩!!! 大変です、大変です! 今までとは比にならない程の大変です! 今回ばかりはヤバすぎます! 本当にヤバすぎるんです!!」


 今日は取引先との商談があって昼からの出社となってしまったが、到着早々、いつもと変わらぬ後輩の姿があった。もう、件名を聞かずともその内容が想像出来てしまうのだから、慣れって恐ろしい。


 ただ、内容が予想出来ることとは裏腹に、具体的な詳細については全く予想出来ないのだ。今回は何をやらかしてくれたのだろうか。それに、先程は煩い事に関していつも通りと評したが、煩さの程度については確かにいつもよりも酷かった気がする。ここまでになるほどとは、一体どのくらいなのだろうか。


「分かった、分かったから一旦落ち着くんだ。興奮のあまり、内容に関しては一切触れることが出来ていないぞ? 一旦落ち着いて整理して、端的に私に伝えるんだ」


「は、はいっ! 落ち着きます。ふぅ、落ち着きました。それでは件の彼についての報告をします。まず、彼は湖に到着し、身投げをすることで溺死を開始しました。ここまでは恐らく、先輩もご覧になっていたかと思います。ですが事件はこれからです。まず、彼は溺死を繰り返すことでスキル、潜水、を獲得しました。効果内容は字面からも分かる通り、水中で呼吸を可能にするモノになります」


 うん、そうだろうね。彼が身を投げ出した時点でこうなることは今までの流れからも予想がついてた。だが、彼女のあの焦りようはこれだけのことでは生まれないはずだ。つまり、ここから事件が起きたのだろう。


「先輩もここまでの流れは予測していたかと思われます。ですが、彼は何を思ったのか水中に留まり続けたのです。そして湖底に辿り着き、随分と長い時間をそこで過ごしていました。途中、湖底で何か探し物でもしているかのように、隈なく湖底を探索していましたが、遂に、ある一点で彼は止まりました。そこで彼は、その地面をてで弄り始めました。

 最初から知っていたのか、それとも本当に偶然なのか。でもただの偶然とは思えないのですが、その場所はなんと、海底神殿への入り口でした」


「な、なにっ!?」


 海底神殿、それはこのゲームの一周年記念イベントとして用意していたもので、まだ公開予定では無かったものだ。まさか、その存在がもう明るみに出るとは……もし、存在がバレても最悪良いと思っていたが。まさか、本当にバレるとはな、それもこんな早くに。


 そもそも湖底に行く人なんてそうそういないし、居たとしても、その入り口の座標を見つけるのは相当しんどいはずだ。本当に光の微妙な加減を調べないと分からないし、分かったとしても、看破というスキルを使うか、根気強く調べ続けるしかない。


でもまあ、逆に根気強く調べ続ければ分かると言うことでもあるから、見つけられたのは素直に称賛するしかないな。言葉にするだけだと簡単そうに思えるが、分かるのと実行するのでは全然違うからな、それに本人は何かがあるかどうかも分からない状態なのだから、本当に凄い。


「そ、そうか、本当に海底神殿が見つかったのか…あそこが見つかるのは相当先だと踏んでいたのだが、もう見つかってしまうとはな…また別のイベントを考えないといけないな。それにしても、彼は本当に凄いな、無いとは分かっていても、内通者なんじゃないかと疑ってしまうほどだ。」


「んぱい、先輩!!何、現実逃避してるですか!海底神殿を見つけたことは素直に称賛に値しますが、それだけじゃないでしょう!?海底神殿といえば、一周年記念ですよ?なのに、神殿だけだと思ってるんですか?そこには勿論、海龍リヴァイアサンがいるんですよ!!」


「あ、」


やばい、胃薬足りないや、買ってこよう。

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