第9話 唸る観察眼
今回獲得したキノコ喰らいもそうだ。キノコには様々な種類があり、それぞれによって効果が違うが、それを全て把握するのは難しいだろうし、なにより、キノコを食べるという発想が出てきにくい。
スキルと称号の獲得方法をなんらかの手段で知った時に、全てのキノコ一覧も同時に見て知ることが出来れば、もしかしてあり得るかもだが、それは流石に無いだろうし、そもそも、キノコ一覧なんてものは無い。
キノコは環境によって自動で決定されるため、環境を作った時点で、キノコも副次的に産み出されるのだ。だから、我々も全てを把握はしていないのだ。
それを全て把握し、効果も全て知ることが出来た、という非現実的な考えよりも、彼が、偶然スキルと称号を手にした、と言われる方がまだ、納得は出来る。
したがって、今のところではあるが、彼はスキル、称号の獲得方法は知らず、ただただ偶然で今の状況に陥ったと推測出来る。もし本当にそうならば、安心出来るというものだが。
まあ、それでも彼が何故この行動に走っているのかは、依然謎のままだし、彼がこのゲームに及ぼす影響も測りしれない。このゲームに穴がない確率が上がったが、逆説的に彼を止められない確率も上がった訳だ。悪いことを一切していない。彼を止めることなど出来ないからな。
ただ、完全に疑念が晴れたわけではなく、現時点での判断であるため、勿論、これからも監視を続けていかなければならない。ただ、今までより幾らかは、気楽に見れるというものだろう。
それにしても、毒キノコか。一体どんな味がするんだろうか。一瞬、うまって言いかけてたから、やはり美味しいのだろうか、毒がある食べ物は美味しいって聞くからな。それにしても、彼はゲームでしか出来ない体験をここぞとばかりにしているよな。これがある意味本当の楽しみ方なのかもしれないな。
私もコソッとログインして、毒キノコ食べてみようかな、いや、流石にまずいな。職権乱用になりかねないな。
「先輩! 先輩! 何ボケっとしてるんですか! 例の彼、またやってくれましたよ! 今度は、毒無効に称号二つですよ……毒無効は想像出来ましたけど、二つも称号って、ほんとスズちゃんに愛されすぎですよ……ここまで来ると、流石にチートを疑いますよぉ」
「そうか。今度はどんな称号を手に入れたのかな?」
もう、彼に対して、もはや驚かなくなってきている。寧ろ、もっとやってくれ、や、今度はどんなスキル、称号を手に入れたんだ、と言う期待感の方が強くなっている。まあ、彼によって引き起こされるであろう問題から目を背けているだけと言えばその通りなのだが。
直視しようと思ったら、胃薬が必要になってくるからな。まあ、しょうがないのだ。
「二つの称号の内、一つは、キノコマスターといい、キノコ喰らいの上位互換に当たりますね。効果はキノコを食べた際の効果が更に上昇します。もう一つが、これまた変な称号ですが、自傷者、と言う称号で、VITを僅かに上昇させるものですね。
今回もあまりパッとしませんが、これが積み重なって、更に普通にレベルも上げ始めたら、恐ろしい事になりますよ! どうしますか先輩?」
「どうするって、どうしようも無いよ。彼は普通にゲームをただ楽しんでいるだけだからね」
「で、でも、これは明らかに何かありますよ! 絶対に! どうにかしないと、このゲームが終わるかもしれないんですよ?」
「例えそうだとしても、我々に出来ることは無いんだ。もし仮に何か悪事を働いているとしても、その確たる証拠も無いし、私には、この一連のことを狙ってやっているようには、どうしても見えないんだよね」
そう、私の長年の観察眼(現実世界に向けられたものも含めるとかなりの年数だが)によると、彼は何か目的が、強くなるとはまた別のところにあって、それを達成しようとする過程で、偶発的になっているように見えるんだ。
これこそ、何の確証もない。ただの妄想として捉えられるから、誰にも言わないが、それでも、私の目にはそう映っているのだ。それに、終始、心が此処にあらずといった感じなのも気になる。
だが、肝心の彼の目的には一向に検討がつかない。本当に彼の目的は一体、何なのだろうか。
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