第7話 胃薬
ホーンラビットの憐れみ、その効果はスキル【頭突き】の取得のみ。確かにスキルを貰える点では、強いのかもしれないが、それにしても微妙なスキルだし、戦闘中に使う機会が何回あるのかも怪しいところではある。
そんなスキルを与えるためだけに、この称号を与えたのか。それとも、本当にホーンラビットにやられ続ける彼が、不憫だったのか。その答えはSSZSのみぞ知る、ってわけか。非常に気になるな。
それにしてもこの彼は、本当にSSZSの寵愛を受けているのかもしれないな。まだ、もう一つ称号を獲得している訳だし、もう頭が本能的に考えることを放棄しようとしているのが分かる。
純粋に、この後彼がどうなっていくのか、どう成長して、他のプレイヤーにどんな影響があるのか、なんの責任もない、一観察者として、ただただ傍観し、それを楽しみたい。
だが、今こうして観察出来ているのは、責任あってのものであるし、それがなければ観察もできないし、そもそも彼を知る由も無かっただろう。そう考えると、これで良かった気もするが、やはり責任ある立場からすると、彼の存在はとてもワクワクさせられるモノである反面、何が起こるか、今後どうなるのか、全く読めないと言う意味で、非常に危うげで、怖い存在とも言える。
責任が無かったら、と、そんな妄想をしたくなるほど、二つの側面があり、そのどちらもが大きすぎるのだ。もう、胃薬の用意をしなければならないかもしれないな。
制作過程に於いて、私はよく、スポンサー契約やその他諸々で外に営業にいくことが多かった。それもかなり大きな組織だ。その時も私の胃薬が飛ぶように無くなっていったのだけど、今回もそうなりそうで怖いな。
おっと、少し話が脱線し過ぎたようだ。話を戻そう。彼はもう一つ、称号を獲得しているんだ。その名も、博愛主義だ。
名前だけ聞くと、穏やかそうで人畜無害そうな響きだが、その中身は決してそんなことは無い。それは、スキル【HP自動回復】の取得だ。このスキルも無害そうなのだが、このスキルをこんな序盤で手に入れる、ということが問題なのだ。
このスキルは、我らも想定していたのだが、もう少し時間が経ってから取得される予想だったのだ。少しの誤差はあるとは思っていたが、まさかこんなに早くプレイヤーの手に渡るとは……
このゲームでは、何度も出てきているSSZSによるスキル付与だけでなく、その他にもスキルを獲得出来る場がある。例えば、スキルショップに代表されるお店や、ダンジョンの宝箱などだ。それらのスキルに関しては我々が独断と偏見により、勝手にプレイヤーの手にわたる。
そんな訳で私達も、私達にスキルの考察から考案までたくさん行ってきており、SSZSをプログラムしたのも後輩であるからある程度は予想出来るのだが、まさか、称号の付与という形で間接的にスキルを与えるとは、私達の予想していなかった事だ。
これなら、場違いなスキルも獲得出来てしまうということか。これを発見してくれた彼には感謝だな。ただ、彼はホーンラビットで死ねなくなった事に残念がっているようだがね。
しかし、漸くこれで彼の死に戻りが終了して、彼の新たな冒険がスタートするのか。新人というには些か強すぎる気もしなくも無いが、まあ、一件落着ということだろう。
だが、あまりにも強すぎて、活躍しすぎることで、嫉妬が起こり、プレイヤー間
で揉めなければ良いのだが……
一件落着と思っていたが、寧ろ、これからが大変かもしれないな。チートの疑いがかけられたり、それによる問い合わせも沢山くるかもしれない。ちょっとオペレーターの数を増やすよう、指示しておかないとな。
「先輩! 先輩! 大変です! 件の彼が……」
うん、胃薬買ってこよ。
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