第6話 異常事態発生


「先輩! これはやばいですよ! 先輩、先輩!!」


「あぁ、私もしっかりとこの目で確認していたよ。彼、とんでもない事になってるね。これはどういうことなんだ?」


 私も、後輩も、同じく言葉が上手く出てこない。というか、なんと言えばいいか分からない。先日、二つ目の称号を手に入れた彼を見て、要注意観察対象になったばかりというのに、早速やらかしてくれた。しかも、その内容がかなり凄いことになているんだ。


 最初は、刺突耐性という、これでも十分珍しいのだが、まあ、言ってしまえば良くある耐性スキルの獲得だった。私たちはその獲得だけでも珍しく思ったのだが、まだスキルなのだ。称号と比べて、まだ獲得はしやすい。


 それだけで終わってくれれば良かったものの、そこから更に、称号三つとスキル二つを獲得しているんだ。そのうち一つは、刺突無効で刺突耐性の上位互換だ。


 正直言って、もう訳が分からない。前、二つ目を獲得した彼を見て騒いでいた私たちを嘲笑うかのようなこの連続称号獲得、もう合計で五つ目だ。つい最近始めたばかりでこの数は、はっきり言って異常だ。


 それも、今回のは今までのように軽いものではなく、かなり強力なモノも含まれているんだ。また、称号の効果でスキルも獲得しており、スキルも合計四つとなっている。


 しかも、異常なのはスキルと称号の数だけではない。それを獲得するまでに至った経緯だ。彼は、ゲームを真っ当にプレイすることなく、ただ、ホーンラビットに殺されるという方法でそれを成し遂げたのだ。それも、痛覚設定100%で、だ。


 痛覚設定が通常であれば、このスキルや称号を狙ってやっている線も考えられるが、そうではない。単なるマゾヒズムのようだが、そんな雰囲気も出していない。全く分からない、謎だ、謎過ぎる。


 この人は一体、何なんだ? 一体、何を目的にしているのか未だに分からない。


 一旦、称号の詳細をもう一度、見てみよう。まず、無謀なる者、はただLUKをあげるだけ、同じく狂乱者もVITを上げている。そう、ここまではまだ可愛いもんなのだ。ステータスアップは普通に強いが、何も無いプレイヤーでも、レベルを上げることで対抗は可能なんだ。


 ただ、問題なのがその次だ。まずは百の屍を超えし者、これは正直とても危うい称号なんだ。普通に考えれば、死ねば死ぬほどステータスアップって、使いどころが無いように感じるだろう。デスペナルティもあるし、そもそもそんなに死なないだろうからだ。それ故に、この称号は基本的に死に称号になるはずなのだ。


 ただ、彼は違う。彼は、デスペナルティを一切気にせず、死にまくっていたのだ。ゲームを始めてすぐにその行為に及んだため、実質ペナルティが無くなるのだ。なぜなら、減るステータスもお金も無いからだ。それを生かして、死にまくる、何てことをされたら、レベル上げをする必要すら無くなってしまうのだ。


 彼はこのゲームで唯一、レベルを上げることではなく、死ぬことによって強くなれる存在になってしまったのだ。


 今までの躊躇のない死に様を見る限り、今後も果てしない数、彼は死ぬのだろう。常識的に考えても、普通に気が狂いそうだし、痛みや苦しみに耐えられなくなりそうなもんだが……


 とりあえず、彼の心情を考察するのはやめておこう。まだ残り二つも称号があるんだ。先にそちらを精査しようじゃないか。


 残り二つの内の一つが、ホーンラビットの憐れみ、だ。


 SSZSにこれだけは問いたい、この称号は果たしているのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る