第2話 見過ごされる彼


 事実は小説よりも奇なり、という言葉がある。



 NSOが開始してから約一ヶ月、特に大きな問題やバグも発生せずに、このゲームは安定期を迎え始めていた。どの部署でも問題は発生しておらず、正に順風満帆という、順調そのものだった。


 ゲーム運営が順調な今、私の日々の日課は、プレイヤー達の行動を観察することだ。小さい頃から人間観察が好きだった私が、この絶好の機会を逃す訳はない。勿論、プライバシーの問題も考慮しているため、私はそのプレイヤーの中身、つまり現実の個人情報は知らない状態だ。


 まあ、普通に知ってしまっては興醒めであるし、ただのストーカーになってしまう。私はそうではなくて、完全に現実とは隔離されているこのコミュニティの中で、人はどのように行動し、どのような感情を抱くのか、それをみるのがとても楽しいのだ。


 このゲームを購入してもらう際に、利用規約に同意してもらっているからな。問題は一切無い。その上で、健全に楽しんでいるのだ。


 そこで、あらゆる人が織りなす物語、ヒューマンドラマはとても面白い。そこら辺の下手な小説なんかよりかは、何倍もの私の心を楽しませ、満たしてくれる。


 今日も今日とて、いつも通りの日課を始めようとした時、


「先輩! 先輩! なんか先輩が好きそうな子がいますよ!」


 今日も相変わらず元気だな。この、私の後輩も人間観察が好きなようで、たまにこうやって、面白い人がいたら報告してくれるんだ。


「なんだ? この前の魔法使い少女よりも、面白そうな逸材がいるというのか?」


 以前、彼女が紹介してくれた人に、魔法使いの少女がいた。その少女はもう、いかにもな魔法使いで、全ての能力を魔法関連にしていた。


 以前は極振りが流行っていた時期があったか、それのカウンターカルチャーとして、無難なステ振りに少し遊びを持たせた、エンジョイ型が流行しているこのご時世、極振りとまではいかなくとも、こんなに尖った構成をするのも珍しく思ったんだよな。


「ぱい、先輩! せ、ん、ぱ、いー! 聞いてますかー!」


 いかん、いかん、私の悪い癖ですぐにもの思いに耽ってしまうのだ。


「それで? どんな人なんだ?」


「どんな人なんだ、って、ほんと都合がいいんですから。その人は今さっきゲームを開始したばかりの人なんですが、キャラ作成時に、ステータスを一切振らずにゲームを開始したんです!

 どうです? 興味湧きましたよね?」


 このゲームでは、キャラ作成時にはステ振りだけで、スキルは獲得出来ない。まあその分、後天的に獲得しやすくなっているんだが、だからこそ、最初のステータス振りというのは、ゲームをプレイする上でかなり重要になってくる。


 何故、ステータスを振らなかったのか。とてもこの人に聞いてみたい。どういうつもりでそれをしたのか。だが、それと同時にゲームを始めてすぐにステータスを振るだろう、ただ、早くゲームをしたかっただけなんだろう、と、そう思う自分もいた。


「んー、どうなんだろうな。何か意図を持ってしているのならともかく、一刻でも早くゲームをしたかったんじゃないか?

 気になるのは気になるが、そこまででは無いな。もし面白そうだったら、また教えてくれ」


「むぅー、絶対何かありますし、絶対に面白いのにー。すぐにまた先輩を呼ぶことになると思いますよ!」


 逆にそうであって欲しいと願っている。面白い人ならば、何人でも大歓迎だ。


 だが、今は別の人にハマっているからな。先ほどの魔法使いに加え、モンスターを恐れるあまり、VITにほぼ極振りをする人にハマっているんだ。ここからどういう成長を遂げるのか、非常に楽しみだ。

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