死にたがりが逝く!〜運営編〜
magnet
第1話 嵐の前のひと時
ふぅ、遂にこの時が来たか。
いよいよ、私達が作ってきた技術の結晶、numerous star online 略して、NSOが世界へと船を漕ぎ出す。
制作期間、約五年、初期のアイデアの部分からだと、十年以上前だろうか。コツコツと人を集め、技術を集め、様々な勉強をしながら、変わりゆくこの世界に揉まれに揉まれながら出来上がった、渾身の作品だ。
当初はこんなの上手く行くはずが無いだとか、現実的では無いとか、面白く無いだとか、散々な事を、色んな奴らから言われた。だが、面白いかどうかを決めるのは、頭の固い年寄りではない。実際にこのゲームをプレイしてくれるプレイヤー達だ。そして、私には彼らに面白いと言ってもらえるだけの自信があるのだ。
誰になんと言われようとも、このゲームは成功を収める、それもとびきり大きな大成功だ。それを今日からこの世界中に轟かせるんだ。この、NSOを、そして、開発責任者である、この……
「先輩ー、なにぼけーっとしてるんすかー? このゲームにとって一番大事な時間ですよ? 多くのプレイヤーが夢と希望を胸に秘めて、ゲーム開始を今か今かと待ち詫びてるんですよ?
そんな時、重大なバグでもあったらどうするんですか! 一気に興醒めなんですよ? ちょっとしたバグでも無いように、チームみんなが最終確認を進めてるんですから、先輩もあほ面晒さずに必死こいて頑張ってくださいよ!
嬉しくて感慨深いのは、みんなおんなじなんですから……!」
「そ、そうだよな、すまない。しっかりとやるぞ」
彼女は、計画当初、初期の初期から一緒に歩んでくれた、二つ下の後輩だ。先程のように、たまに口が悪くなるが、ゲームにかける想いは並々のものでは無い、私顔負けだ。
私が何度も心が折れそうになった時、いつも励ましてくれたのだ。このゲームがあるのは、彼女のお陰と言っても過言ではないだろう。
そして、こうやって二人で始めたものが実を結び、世に羽ばたいて行くことを想うと……
「先輩!! もう少しですから気合入れて下さい! あと少しですよ!」
最後のラストスパートのようだ、私も気合を入れ直さなければな。
そして、遂に……
「ゲーム開始でーす!! 先輩お疲れ様です! 目立ったバグも特に無く、多少のバグも書き換え完了ですし、恐らく問題はありません! ひとまず、これで一休み出来ますね……流石に三十四時間ぶっ続けはしんど……」
彼女はあまりにも気をつめ過ぎていてのだろう。緊張の糸が解けて、あっという間に寝てしまったようだ。彼女はいつ見てもデスクにかじりついていたからな……ここはゆっくり休ませてあげよう。
これでいよいよ我が子とも呼べる、ゲームが人々の手に渡ってしまった。ここからはもう、運命に身を任せよう。そして、まだまだ出来ることは山積だ。天命を待つ前にはやはり人事を尽くさねばならないだろう。少しでも楽しんでもらえるよう、ここからが勝負でもある。
だけど、今日くらいは寝ても良いだろうか。私も四十八時間以上、ぶっ続けなんだ。各部署と最終調整を行ったりとなかなかハードな時間だった。取り敢えず、今だけは少し私に時間をくれないだろうか……
どうか大成功、しますように。そして一人でも多くの人がこのゲームで楽しめますよう、に……
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