第30話 気合い
翌日、弓専門店にビンスと合流し4人で向かう、合流した途端ハルに肩を回し王都レブリングの良さや歴史を話し出す。
しかし、最初に感じた何かが気になり3人に聞く。
「なんか雰囲気変わった?」
「何も変わっとらん」
「変わってないわ」
「どういうこと?」
三者三様の返事だ。
「そうかい?なんかこう…まぁいいか」
ビンスは気にはなったが更に聞く事はなく、ハルに王都レブリングの話を続けた。
店に着きアリアが話す。
「あたし達は弓の事はわからんからそこの店でケーキを食べる、終わったら来い、ビンスはどうする?」
「僕もアドバイス出来るほど詳しくないからケーキを食べようかな」
「この袋に入ってるお金はハルのだから渡しておくわね」
「わかった」
ソフィから魔法の袋を受け取り、ハルは1人で弓専門店に入った。
外観は綺麗だが木造で、中はハワードの店の雰囲気に似ていた、なんとなくホッとするハル。
カウンターに座っているお爺さんに話しかける。
「すみません、大きくてもいいので威力のある弓ください」
「…わからんの、それじゃ」
「え?」
「具体的に言え、何を標的にするのか、戦闘での役割、お前はそもそも冒険者か?何級じゃ?」
「えっと、冒険者で銀級です、標的は…」
「銀級ならそこの棚から選べ、中層ならそれで十分じゃ」
「いや、龍山にいきます」
「なんの冗談か知らんがやめておけ死ぬだけじゃ、魔闘術すら使えんもんが行くとこじゃないからの」
ハルが魔闘術を発動する、店内に日は差し込んでいるが薄っすらハルが光っている。
「…使えるならはよ言え、じゃがそんなもんで龍山に挑戦なぞ舐めるのも大概にせい」
ハルは更に魔力を込め、循環速度を上げる。
「おっ、おっ、やめっ…」
最大出力で魔力を込め、金切り音が聞こえてくる程の循環速度を出す。
「やめろ!やめんかー!馬鹿もんが!」
目の前で見せられたお爺さんはハルの魔闘術の圧力と眩しさに憤慨したようだ。
ハルは魔闘術を解除する。
「目の前でしよってからに…言ってからせんか…銀級なんぞ嘘つきよって…それでなんじゃったかの、龍山で戦うんじゃったな」
「はい、20mは離れた所から竜種に刺せるような弓と矢が欲しいです」
「竜じゃと!?…まぁあれだけ使えるなら納得じゃな…それは難しいのぉ、目の様な柔らかい所なら刺さるじゃろうがあ奴らの皮膚は硬いからの…加護は持っとるか?」
「はい、風の加護を」
「そりゃ好都合!矢に風を纏わせれば貫通力が上がる、出来るか?」
「やったことないです」
「どれくらい使えるか見せてみぃ」
ハルは掌にそよ風を起こす。
「馬鹿タレ!そんなんでわかる訳ないじゃろ!腰につけとるナイフの切れ味を上げて見せろ」
ハルはナイフを取り出し風を纏わせる。
風の速さ、風の密度、風の纏わり具合、どれもウォールの見せたものと遜色なかった。
「それだけ出来れば申し分無い、待っとれ」
暫し立って待つ。
「これじゃ」
ハルの短弓と変わらぬ大きさだが金属で出来ている。
「ミスリルを中心に使って、回りを靭性の高い金属で覆っておる、引く力はかなり必要じゃがこの大きさで驚く程の威力が出るぞ、矢もミスリルを鏃に使っとる、風を纏わせるのが楽になる、消耗品じゃが高級じゃ鏃だけでも回収せい」
「わかりました」
「それで…本当は何級じゃ?」
「銀級です」
「金級か?それだけ出来るんじゃ白銀でもおかしくないのぉ?」
「銀です」
「銀級な訳…」
暫く押し問答があり最終的にギルドカードを見せお爺さんは渋々納得していた、弓と矢を購入してアリア達の所へ向かう。
アリアがハルが近づいて来るのに気付く。
「これでハルの装備は整ったか、思ったより早かったな」
「注文することがなかったからな」
「今日まで王都で過ごして、明日の朝出発しよう、皆いいか?」
「わかった」
「大丈夫よ」
「準備はバッチリさ」
「よし、王都最終日、自由に過ごせ!」
ビンスがすぐにハルの元へ来る。
「じゃあ行こうかハル!王都レブリング観光の続きだ!」
「いや、弓を確かめて来る、風の加護も試さなくちゃいけないから」
「そうかい?まぁそれなら仕方ないね、またの機会にしよう」
ハルは街の外へ向かって行った。
「ハルは王都レブリングが楽しくないのかな?」
ビンスがアリアとソフィに聞く。
「どうだろうな…」
「新しい弓を早く使いたかっただけかも」
「その気持ちは分かる」
「アリアは新しいもの買ったら子供の様にはしゃぐわよね」
「子供では無い!師匠だ!」
「師匠には最近なったんじゃない」
「ソフィだって加護を手に入れた時、バカみたいに使って魔力切れで何度も倒れてたじゃないか!」
「訓練の一環だし、自分の魔力量を正確に把握する目的もあったわ、アリアみたいにはしゃいでいた訳じゃないわ」
「ああ言えばこう言いおって…!いかん!ソフィとは口論しないと誓ってたんだった…次からは…」
「ビンス、私達は買い物に行くけどどうするの?」
「僕もお供しようかな」
「じゃ行きましょうか、アリア、ブツブツ言ってないで行くわよ」
その後ハルが宿に戻ってきたのは夕暮れ時だった。
ビンスに連れられ初日とは違う店で夕食を取ったが、ここでも味はよくわからなかった。
翌日、早朝から出発。
ハルは至って普通な防具を着込んだビンスの登場に気が抜けたが、隙間から見えるシャツとズボンの禍々しい色と模様に苦笑いを浮かべた。
そこから1日かけフロンティーラ森林に着き龍山を目指す。
「龍山の麓迄は真っ直ぐ進む、ハルの魔力量も大分上がった、それにビンスもいる、山の中を進みながら南下する、全体的なレベルアップと連携を深めていく、行くぞ」
アリアの掛け声に3人は頷き龍山を目指す。
「ビンスはどんな戦い方するの?」
ハルがビンスに聞く。
「ソフィと似ているよ、片手剣と魔法だね、このメンバーなら前衛より中衛での立ち回りが増えるかな」
「加護は火?」
「そうだよ、ソフィと戦ってきたなら同じ様に動いてもらって構わないから」
「わかった」
「ハルは魔法使わないの?」
「俺は基本しか教えてもらってないから、まだ魔力を飛ばす練習はしてないんだ」
「基本がしっかりしてれば応用は簡単になるから基本は大事だね」
「あぁ、毎日訓練してる」
「ハルは風だったよね?飛べる?」
「飛べる、でも移動には使えるけど、戦闘に使えるまではいってない」
「戦闘で使うには放出し続けるよりも一瞬で爆発的に使う必要があるから難しいよね」
「一応、アリアとソフィに聞いて感覚は分かってるけど、見たことないから風の作り方が難しくて」
「なるほどね、見ないとイメージするのも難しいものね、フォルトに教えてくれる人がいるの?」
「ウォールさんっていって、ギルド長してる人が教えてくれる」
「へー、ギルド長がね…ハルは期待されてるね」
「どうかな…分からないけど、良い人だよ」
走りながらコミュニケーションをとり日暮れに龍山の麓に着いた。
ここで夜営し、夜明けから行動開始する事にした。
夜営では女性、男性に別れて見張をする。
「アリア、魔族領に行くには私達もかなり鍛えないと難しいわ」
「わかってる、時間は掛かるだろうがその辺はハルもわかってるだろう」
「今でも行くだけなら何とかなると思うんだけど…」
「それじゃ足りないからな、ハルを連れて帰らなければならん、ハルは魔族領にいけると判断したら行く、たとえ帰ることが出来ないレベルでもな、だからあたし達はそれまでに連れ帰れるだけの力を付けないとならん」
「大変ね…師匠は」
「あぁ、師匠は大変なんだ」
「じゃあ龍山の中腹まで行くの?」
「行くが、登ったり降ったりする、龍山の環境に慣れる目的もあるし、あたし達の魔力量も上げねばならん、ビンスには付き合わせて申し訳ないが同じ白銀級、問題はないはずだ」
「わかったわ」
「ハルの為とは言え、あたし達の目的にも近付く、今迄より更に気合を入れていく」
「私も気合い入れなくちゃ…大変ね、師匠は」
「あぁ、すごく大変なんだ、師匠は」
アリアとソフィが決意新たに夜は更けていった。
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