第28話 億万長者
為されるがままのハルにアリアとソフィが追いついた。
ソフィが声を掛ける。
「ビンス、止まって」
「向こうの大きな建物、あれはゴーバ商会のものでこの王都レブリングで1番の商会だよ!支店はいくつもあって王都レブリングの中にも6店舗もある、日用品から趣向品、高級な物まで幅広く取り扱っててね、価格も良心的だ!後で寄ってみよう良い物が見つかるはずだよ!あっちはね…」
「ビンス!止まって!」
「ん?ソフィ!アリアとは会ったけど君がいないから心配したよ、元気だったかい?僕はこの通り元気一杯さ!今夜はハルの為に美味しい食事を食べに行くから君達も是非一緒に…」
「こら!口を閉じなさい!!」
「何を怒ってるんだい?わかった!僕が…」
「喋るなって言ってんだろ」
ビンスは表情が強張り口を閉じる、それを隣で見ていたハルも強張る。
ソフィの雰囲気に憤怒が多分に混ざり元々持っていた強者の香りと相まって辺りを強烈に威圧した。
周囲の人々は立ち止まり、鳥、犬、猫は逃げ出した。
一瞬の静寂の後街の喧騒は戻った。
「ビンス、ハルを解放しなさい」
「はい」
「どこかお店に入って、落ち着いて話しましょう」
「はい」
「ハル、行くわよ」
「はい」
「アリア、あそこの店に入るから席が空いてるか聞いてきて」
「はい」
ソフィ以外の3人が機敏に動き出す。
小洒落たカフェで4人が座っている。
ソフィが話し始める。
「ビンス、アリアから全部聞いた?」
「はい」
「もう怒ってないから普段通り…普段より落ち着いて話して」
「わ、わかったよ」
「ついて来てくれるの?」
「あぁ、もちろんさ、何も起きない可能性もあるんだろ?そうなればフォルトに旅行したと思えば良いし、魔族が来たら世界の危機を救えるからね」
「ありがとう、助かるわ」
「お礼はいらないよ、友達だからね」
「ハルのことは聞いてる?」
「もう友達だよ!」
「そう…私達の新しいパーティーメンバーだからよろしくね」
「あぁ!よろしくハル!」
「よ、よろしくお願いします」
ハルは初めてビンスと会話ができた。
「出発はいつだい?」
「ハルの装備が整ったらフォルトに向かう」
アリアが返事する。
「これから見繕いに行く、来るか?」
「いや、準備が必要だから一度離れるよ、ハルとゴーバ商会に行った時に色々買おうと思っていたけど今日は行けないみたいだからね、準備は早く済ませたい質なんだ」
「わかった、夜飯を一緒に食うならいつもの宿にいる」
「日が沈んだくらいに迎えに行くよ」
「あぁ、待ってる」
「じゃあ、行くね」
「私達も一緒に出るよ」
飲み物を飲み干して皆で店を出た。
ハルの装備を買いに行く3人。
ハルが2人に聞く。
「あの人いつもあんな感じ?」
「えぇ、言動も格好もいつも通りよ」
「すごいな」
「気合いが必要だったでしょ?」
「あぁ…気を抜いてたから大変だった」
「今日の服以外でも視界を狂わせてくるから気を付けてね」
「気合いを入れておくよ」
「ビンスはいい奴なんだ!悪く言うな!」
「悪くなんていってないでしょ?洋服の好みの話よ」
「確かに格好は独特だが…」
「私とハルはビンスの服装についてお互いの意見を交換してたの、そこに悪意は無いわ、それにビンスはいい人なのは十分理解してる」
「それならいいんだ…」
「ついて来てくれるって言ってくれただけで良い人なのは伝わる、ねぇハル?」
「あぁ、良い人だな、いっぱい喋ってたけど嫌な感じはしなかったし」
「だろ!あいつは良いやつなんだ、いつでも手を貸してくれる」
「いろんな人に手を貸して、偶に騙されてるけど『これも人助けの内さ!』
って笑ってるわよね」
「良い人過ぎるんじゃ…」
「あたしはそんなことしないぞ!友達だからな」
「そんな事する人と私が一緒にいるわけないでしょ…ハル、そろそろ着くけど馬車で話していた事決めたの?」
「うーん…まだ迷ってるかな」
「お店について武器を手に取りながら決めても良いかもね」
「わかった」
ハルには決めかねている事があるようだ。
武器屋に着いた3人。
流石王都と言うべきだろうか、武器という野蛮な商品を扱っているとは思えない程高級感漂う店構えだ。
内装も整っており、洗練された男性店員が接客をする。
「いらっしゃいませ、アリア様、ソフィ様」
「コイツ…ハルの剣を買いに来た、種類は決まってないから暫く見させてくれ」
「私は前回買った片手剣を2本貰います」
「かしこまりました、アリア様ハル様ご自由にお手に取ってご覧ください、ではソフィ様こちらへどうぞ」
ソフィはカウンターの方へ行き、ハルはアリアに付いて行く。
ハルはハワードの店を思い出し、都会とはこんなにも違うものかと驚き感心していた、だが慣れ親しんだハワードと鍛治屋オリハルコンを恋しくも思っていた。
「手に取ってみろ、馴染むやつを探せ、随時相談は受けてやる、師匠だからな!」
「わかった、師匠」
「あたしは向こうを見くるからな…フフフ」
ハルは様々な形、種類の剣を手に取っていく。
軽く振ったり、右で持ったり、左で持ったり…なかなか見つからないようだ。
ハルは自分の身長よりも高い位置の頑丈そうなケースの中に綺麗に飾ってある剣に目をやる、どれも高そうだと思いながら二振りの剣に目が止まる、それは交わるように飾られていて、今まで使っていたファルシオンと同じくらいの長さで刃の形状も同じく湾曲している、異なる点は峰も刃同様に湾曲している所だけだ。
自分の使っていた剣に類似性を感じる以外にも感覚的な何かを感じるハル。
そこに女性店員が近くを通る。
「すみません、あれを見せてもらえますか?」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
踏み台を持って来て棚から降ろし、ハルに手渡してくれる。
鞘をつけたまま両手にそれぞれ持つ。
「これ買います」
「えっ…?冒険者をされている方でしょうか?」
「はい、フォルトから来ました、銀級です」
「フォルトから…銀級ですか…」
「?」
ハルは若く見える、実年齢もだが身長が同年代の者より低く顔立ちもどちらかと言えば童顔に見える。
女性店員の値踏みするような視線の意図が分からず困惑する。
「これを…」
「こちらの商品は大変高価になっております、申し訳ございませんが銀級の方に買える額ではありません、ご予算をお教えいただけましたら合わせた商品をご紹介致します」
それを聞いたハルはそういえばいくら使えるのか聞いていなかったと思い少し離れた場所にいるアリアに聞く。
「アリア!さっきの素材のお金!俺の分はどれくらいだ!」
「たぶん50億はある!詳しくはソフィに聞け!」
「わかった!…50億で足りますか?防具も買わなくちゃいけな…」
「た、大変失礼致しました!こ、こ、こちらへ、どうぞ」
女性店員は膝につく程頭を下げてハルを案内する。
ハルはいつの間にかお金持ちになっていたみたいだ。
「決まったみたいね、双剣で」
案内された先にソフィが居た。
「あぁ、これにする、ほとんど直感だけど」
「それで良いと思うわ」
「じゃあさっきの素材のお金で払うから…」
「出しておくからいいわよ、ハルの袋じゃ58億Gは入らないでしょ?」
「無理だな」
「店員さん、ハルの持ってる2本ともう1本同じ物を下さい」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
ハルに対応していた女性店員が猛ダッシュで駆けていった。
「スペアか」
「そうよ、折れたりする場合だけじゃなくて戦闘中に手放してしまっても袋に入れておけばすぐ取り出せるから、隙を1つ無くせるかもしれないわ」
「なるほどな」
「私は両手を魔法に使う場合がある時鞘に収めてると隙になっちゃうから手放す事があるの、だからスペアは沢山持ってるわ」
「じゃあもう1本買っとこう」
猛ダッシュで戻ってきた女性店員に更に注文すると顔を痙攣らせながらまた猛ダッシュで駆けて行った、帰ってきたときは大きく肩で息をしていたが表情は特大の営業スマイルだった。
ハルが何も相談しなかった事にアリアはゴニョゴニョ何か言っていたが無視して防具屋に行く。
隣の店だ。
こちらでも洗練された男性店員が対応する。
自分達で選ぶ旨を伝えて見て回る。
アリアはまだゴニョゴニョ言いながら後ろをついて来ている。
「アリア、何がいいと思う?」
ハルがアリアに聞くが返事はなく、何かゴニョゴニョ言ってる声は聞こえる。
「俺は今の形がいいと思ってるけど、どう思う?師匠」
「そうだな!可動域を今以上に狭める防具はダメだな!風の加護を使うからさっきの剣と同じミスリルを使ったやつがいいな!」
やたら元気になるアリア。
「出来るだけ軽い方がいいから、ミスリルで表面を覆ってるのがいいかな」
「いや、全部ミスリルのやつにしろ、防具を頼るなとは言ったが万が一を助けてくれるのは防具だ、より良い物を買え、ミスリルは革より重いが金属としては軽い、全身に使ってもハルの動きは鈍らん」
「わかった」
「風の加護をもっと戦闘に反映させていくなら尚更ミスリルが適してる、魔力の伝導が1番スムーズな素材だ、火の加護は掌以外から出す事は少ないが、風の加護は体の至る所で使うだろうからな」
「流石だな、師匠」
「そうだぞ!流石なんだ師匠は!ハハハッ!」
ソフィが近づいてくる。
「ハル、お疲れ様」
「いつものアリアに戻って良かったよ、それに本当に流石だと思ってる」
「ハハハハハッ」
アリアの騒がしさに店員が少しだけ嫌な顔をするがハルの高額な買い物で店を出るときは皆ニコニコ顔だった。
弓は武器屋にもあったが、王都には弓専門店があるのでそちらに行く事になっている。
防具屋を出たら夕方になっていたので、ビンスとの約束の為宿に戻る事になった。
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