第25話 其々
「アリア、フォルトに魔族かヴァンパイアが来るんじゃないのか?」
「わからん、だが来る可能性もある、だから迎え討つ準備をしておく」
「1年も離れて大丈夫なのか?」
「問題ないだろう、ウォールの言っていた推測はあたしは信憑性を感じた、それに沿って考えると、暫く来ない筈だ」
「どういうこと?」
「偵察をしていたとする、それを伝える必要がある、そして伝える相手は魔族領域にいる、そこから侵攻してくるならそれ相応の時間がかかる」
「なるほど」
「既に大量の魔族かヴァンパイアが人の領域に潜んでいる、その可能性はかなり低い、大量にいれば高確率で見つかる、それに少数で街を襲うメリットがない、襲った後の人間の動向を探る目的ならば更に長く潜伏していなければならないからな、そんな選択はしない」
「すごくわかり…」
「来たぞ、やれ」
アリアの一言でハルは戦闘に移行する。
グランドコブラだ、側方から近づいてきている。
ハルが敵を視認し走り飛びかかる、グランドコブラは迎え撃つように口を開き頭を突き出す、しかしハルが口に入る事はなく頭を一刀両断された。
ハルは魔石だけ取ってアリア達の所へ戻る。
「続きだが、あの山、龍の住処と呼んでる山、通称龍山を越えるだけで1年はかかる、それ程険しい、あたし達は龍山の中腹まで行った事があるが越えるにはもう少し力をつけないといけない、人間には過酷な環境でも魔族はそうでもない場合があるが、だが1番の問題は龍だ」
「本当にいるんだね」
「いる、気配しか感じた事はないがあれは…出会えば確実に死ぬ、間違いなく死ぬ」
「あの時アリア漏らしたのよね」
「バラすな!ソフィだって私に抱きついて震えて動けなかったじゃないか!」
「アリアに比べればかわいいものでしょ」
「ぐぬぬ…ハル、今のは忘れろ、師匠命令だ」
「わかった、師匠」
「よし、その龍がいるから魔族だって簡単に急いでは超えられない筈だ…エヘ」
「魔族は暑いとか寒いとか感じないのか?」
「詳しくはわからない、そうだろうという程度だ、だがヴァンパイアに限って言えば奴らは眠らない、それだけでも山越えには大きなアドバンテージだ」
「眠らない…」
「そうだ、だが日を浴びていると戦闘力が落ちる、個体差があるみたいで明確にこれくらいとは言えないが、低下するのは間違いない」
「弱点に、なるのかな?」
「奴らも馬鹿じゃない、態々真昼間に襲ってくる事はないだろうから生態の1つとして覚えておけばいい」
「わかった」
「わかっただけ…来たぞ、やれ」
ハルが走っていく。
ロングタートル、体長6mほど、亀型の魔物だ、足と首が長く走るのが早い。
ハルはロングタートルの首を振り下ろす攻撃に躱す動作をせずに走り抜けるだけで躱す、走りながら片側の2本の足を切り落とす、そして倒れた所を飛び上がりファルシオンを上から下へと振り下ろす、するとロングタートルの胴体、甲羅が真っ二つになり動かなくなった。
魔石を取りアリア達の所へ戻る。
「あいつの甲羅を斬れるなら下層でも大丈夫だろう、でも同じ訓練を続けろ」
「わかったよ、師匠」
「下層に入ってもまだ奥に進むからな、そこでまた説明する…ウフ」
「だんだん気持ち悪くなってきたわね」
「最初からじゃないか?」
「また悪口言ってるな!」
チームアリアの一行は下層に向けて順調に歩みを進めている。
フォルト、ウォールの病室にロキが訪れている。
「そう、冒険者やめちゃうの…」
「あぁ、俺はな、ニールは続けるって言ってたからまた世話になると思う」
「ニールが1人でね…ヴァンパイアが関係してるかな?」
「多分な、でもホワイトの仇はハルが取ってくれた、仲の良かったやつが仇を取ってくれたんだ、恨み辛みは少ない筈だ、現に俺はそうだし」
「それならいいんだけど…」
「ニールは特にハルを気に入ってたし、気にしてた…一度ハルの事で話し合った事があったんだ、ハルの目的はなんなのかなって、それからニールは金級になる事を強く早く望んだんだ、俺とホワイトも気持ちは一緒だったんだけど、ニールは特にな」
「ハル君の目的か…復讐かな…ヴァンパイアへの」
「そうだと思う」
「ヴァンパイアと戦っていたハル君は落ち着いてたし、攻防も完璧だった、でも冷酷だった…とてもね」
「まぁ、ハルの目的に関しては推測だし直接聞いた訳じゃない、でもニールはハルと一緒に戦いたいと思ってる、その為には金級になれる力が必要だ、それ以上か、ニールは1人でも目指すんじゃないかな、ハルの目的に付き添えるように」
「なるほどね…ニールらしいよ」
「じゃあ、挨拶はしたから行く、早く治して元気になってくれよ」
「元気なんだけどね…あっ待ってロキ、冒険者やめた後どうするの?決めてるの?」
「仕事見つけて、結婚しようかなと…」
「それはめでたいね!じゃあ仕事は僕が紹介しよう」
「へ?」
「冒険者ギルドで働きなよ、ロキなら大歓迎さ」
「それは願ってもない申し出だ!…俺ならって事は、もしニールだったら?」
「彼は女性問題が起きそうだから難しいかな…僕のように」
「え?最後の方が聞こえない」
「気にしないで、僕が退院したら手配するから、それまで休暇を楽しむといいよ」
「わかった…お世話になります」
「ハハハッ、これからは敬語を使うロキが見れるね」
「茶化さないでくれ…」
「ごめん、ごめん」
ロキの就職先が決まったようだ。
ウォールは女性問題を度々起こしているがルカの大きな器で許してもらっている、しかしお小遣いは雀の涙ほどになっていた。
ニールはギルドに来ていた。
「依頼を受けれるだけ受ける、討伐系のな」
ミランダが受け答えする。
「心配してたんですよ!元気ならもっと早く顔出してくださいよ!」
「時間がおしい、金になる依頼を優先して出してくれ」
「…わかりました、少々お待ちください」
ミランダはいつものニールとは違うことに心配するが、その表情は鬼気迫るものがあり職務を優先する。
「こちらです、1人で行かれるんですか?」
「あぁ、これから偶にしか来ないが心配はいらねぇ、じゃあな」
ニールは依頼書を掴みギルドを出て行く。
ニールの後ろ姿を見送ったミランダの表情は心配する感情がありありと出ていたが、元気な姿を見れた安堵も少し混ざっていた。
下層に着いたチームアリア。
「まだ奥に進むが、説明しておく」
アリアがハルに話す。
「あたしとソフィは龍山の麓で狩りながら進む、ハルは森の中だ」
「1人?」
「そうだ、だがそこまで離れる訳じゃない、叫べばあたしが飛んで来てやる」
「本当に飛びそうだ」
「あぁ!あたしが本気を出せば空を飛んでいるかのように…」
「続きをお願いします」
ソフィが話が逸れそうな所で戻す。
「…んんっ、だから怪我しても心配いらん、死ぬ前には必ず駆けつける」
「わかった」
「最後でいっか…それと下層についてだがお前の防具では被弾すれば厳しい状況になりやすい、だから一撃も貰うな、回避を優先しろ、まぁそれだけ魔闘術を使えるんだ、今までだって大して攻撃を食らったことはないだろうがな」
「わかった」
「やっぱり言ってもら…」
「続きを、お願い、します」
「…ん、んんっ、休憩や夜営のタイミングはあたしが出す、戦いっぱなしの時もあるだろうが気を抜くなよ、あと寂しくなったら呼んでいいからな、師匠を!」
「わかったよ、師匠」
「デュフフフ…龍山の麓に近づいてから北上する、以上だ」
「これ、いつまで続くのかしら?」
「治まる気配がないな」
「何をごちゃごちゃ言ってる!行くぞ!」
ハルの修行が始まる。
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