第24話 決心

ハルはホワイトの墓に向かった、病院から近いということもあるが下層に篭るなら暫く来れないと思い立ち寄る事にした。


ホワイトの墓の前にロキがいる。

ホワイトの葬儀の時以来である、葬儀の時もほとんど会話することは出来なかった。


「ロキ…」

「おーハル、ホワイトの墓参りか?」

「うん、暫く下層に行くから、その前に」

「そうか、下層って事は金級だな、先越されちまったな」

「いや、試験じゃないから銀級のままだよ、一緒だよ…」

「まぁ、ハルならすぐだ、白銀級だって目の前だろう、いや、白金や特級だってあり得るよ」

「…」

「その…なんだ、俺達…銀狼は解散する」

「そ、そんな!」

「ニールとも話したんだよ、ホワイトがいない銀狼は銀狼じゃないってな、2人とも同じ気持ちだ」

「そっか…」

「あんまり気にするな!俺は冒険者やめてセリルと結婚するんだ」

「ロキ…やめちゃうの?」

「あぁ、命懸けの仕事じゃ結婚出来ないからな、でもギルド関係で働けたらと思ってるよ、ニールは冒険者続けるみたいだから面倒見てやってくれ」

「面倒って…ロキとホワイトじゃないとみれないよ」

「ハハハッ、たしかにあいつには俺もホワイトも苦労させられたな、でも楽しかった…すごくな、ニールが冒険者続けるって言ってた時に何か決心したような顔だったから、大丈夫だと思う、ま、これからも仲良くしてやってくれよ、俺も見かけたら声掛けるから」

「わかった…」

「じゃ、行くわ!」

ロキが去っていく姿に言いようのない寂しさを感じ、ホワイトの墓を見つめる事しかできないハルだった。



アリア達が買い物を終えて東門に向かっている途中、ニールが現れる。


「ハルを、ハルを鍛えるって聞いた、俺も一緒に連れて行ってくれ!」

「ダメだ」

ニールの突然の懇願にソフィは少し驚き、アリアは即答する。


「なんでだよ!?強くなりてぇんだ!」

「お前はスタートラインにすら立ってない、そんな奴は足手纏いだ」

「だから!足手纏いにならないように鍛えてくれ!」

「そういうことを言ってるんじゃない…ハルの強さの源はなんだと思う?」

「…魔族への復讐心、か?」

「違う」

「…」

「努力だ、もちろんお前が言った復讐心や憎しみ、怒り色々な感情があるだろう、だがなあれだけの魔闘術、魔力操作を出来るようになるには途轍もない努力が必要だ、それが出来る奴じゃないとあたしのパーティーには入れない」

「俺だって魔闘術は使える!少しだけど…」

「話を聞いてたのか?今まで訓練する、鍛錬する、努力する時間は沢山あったはずだ、だがお前はその年でその程度の実力、強くなる為の努力が全く足りていない」

「これから…」

「今まで遊んでいた奴がこれから心入れ替えて努力します、この言葉に信用は無い」

「…」

「話は終わりか?あたし達は行く」

「…証明…してやる」

「あ?」

「証明してやるって言ったんだ!その努力って奴をな!」

走り去っていくニール、少しその後ろ姿を見て東門に向かって歩き出す2人。


「手厳しいこと」

「事実だ」

「ニールって言ったっけ、彼もヴァンパイアに仲間を殺されたのよね」

「そんな事は関係ない、仲良しクラブじゃないんだからな」

「そうだけど、今の彼の心情、分からない訳じゃないでしょ?」

「…」

「ま、リーダーはアリアだからいいんだけど」

「…」

アリアの表情は過去を思い出したのか物悲しげでいつもの鋭い眼光は鳴りを潜めていた。


東門に向かうハルがニールを見つける。


「ニール!」

20m先にいるニールに駆け寄ろうとするハル。


「ハル!そこで聞いてくれて!」

ニールの言葉に足を止めるハル。


「俺はお前の隣に立つ資格がねぇ!だけど!必ず追いつく!必ずだ!」

声を張り上げるニールにハルは返事が出来ない。


「待ってなくていい!それでも追いつく!その時は一緒に戦ってくれ!」

その言葉を理解するまで少し時間がかかっているハル、ニールが続けて叫ぶ。


「その時は俺も一緒に戦わせてくれ!!」

「わかった!わかったよ!ニール!」

ハルの返事を聞いて笑顔で走り去っていくニール。

ハルも笑顔だった。



東門。

「師匠を待たせるとは何事だ!」

「…」

「何か言うことがあるんじゃないか?ん?」

「すまん…師匠」

「ムフフ、いいだろう」

「ハル、アリアが満足するまでの辛抱よ」

「わかってる」

「そこ!何をコソコソ話してる!準備は整った行くぞ」


フロンティーラの森、下層に向けて出発する。


「ハル、ウォールから聞いてきたな?」

「あぁ」

「じゃあ歩きながら訓練を始めろ」

「え?」

「下層に着くまでに剣に風を纏わらせて切れ味を上げれるようになれ、風使いの基本だ」

「下層に着くまで?」

「特別に歩いて行ってやる」

「…わかった」

「ん?」

「わかったよ、師匠」

「ふふ、よし」

ソフィが捕捉する。


「ハルの今の剣では下層で切れない魔物の方が多いわ、だから風の加護で底上げしないといけないの、防具は…当たらなければいいし」

「わかった」

「ハルは素直でいい子ね」

「なんてったってあたしの弟子だからな!」

何故かアリアが威張る。

ハルは訓練を始める、ウォールが見せたくれたものを鮮明に思い出し、そのイメージに沿って魔力と加護を操作していく。


上層ではアリアの醸し出す強者の香りに魔物は一切近寄って来なかった、それは中層ウノでも変わらなかった。

度々休憩を取りながら歩き、中層ドスに着く頃には日が傾き始めていた。


「ここで夜営する、ハルは訓練を続けろ」

「わかった」

アリアとソフィが夜営の準備をしている中、ハルは繰り返しナイフに風を纏わらせていた。


アリアが料理を作り、ソフィは寛ぎながらハルに話しかけている。


「もう形になってるわね」

「まだ、ウォールさんのイメージには程遠いかな」

「でも戦いには使えるレベルよ、そろそろ剣で訓練しなさい」

「わかった」

ナイフを仕舞い、ファルシオンを抜く。

大きさが変われば込める魔力量や加護の扱いも変わる、先程まで出来ていたことが出来なくなるむず痒しさに表情が歪む。

それを見て微笑んでいるソフィ。


「出来たぞ、食え」

見た目が雑な料理が出てくる。


「いただきます、いつも通りの味ね」

ソフィが食べる、いつもと変わらないらしい。


「いただきます」

ハルが食べる。


「…うまい、すごく、師匠」

「だろ?師匠はなんでも出来るんだ!」

アリアはこれでもかと言わんばかりに胸を張る。


「私の方が上手だけど」

ソフィの一言。


「それは…認めざるを得ない」

アリアの張っていた胸がシオシオと萎んでいく。


「2人とも料理上手なんだね、俺は孤児院で手伝ってたくらいだからあんまり得意じゃないんだ」

「あたしが教えてやるよ!」

「私が教えましょう」

「師匠だぞ!あたしは」

「私の方が美味しいものを作れます」

「2人から教えてもらうよ、そうしたら2人より上手になれるかもしれないし、料理」

「わかった!」

「ハルは本当いい子」

アリアもソフィもハルの過去について一切聞かない、過去に触れるような言葉が出ても全く触れない。

気を使っているわけではない、ハルの年齢でこれだけの努力をしてきている、それは並大抵のことではない、だからこそそこに付随する感情がどれ程のものか分かる2人は決して聞くことはない。

聞いた所で意味がないのだ、その根元を取り除かなければ薄れる事も忘れる事も晴れる事も無いのだから…


見張は三交代で1人ずつで行った。

ハルは見張りの最中もずっと訓練をしていた、もちろん見張は疎かにしていない。


夜明けと共に行動開始する。

片付けをしている時にハルがアリアに聞く。


「下層に籠るってどれくらい?」

「1年位かな」

「1年!?」

「なんだ?困るのか?」

「いや、宿とか…」

「忘れもんか?」

「荷物は全部持ち歩いてるけど…」

「払った金の分がなくなれば部屋を空けるだけだ、気にするな」

「挨拶したい人もいたし…」

「たった1年だ死にはしない」

「めちゃくちゃだな」

「褒め言葉と取っておこう」

「…まぁいいか」

チームアリアに馴染みつつあるハルであった。


「これからの方針はハルの魔力量の向上、装備の向上だ、下層の魔物を狩りながら北上して王都に向かう、そこで素材を売っ払って装備を買う、そんで戻ってくる下層を通ってな」

「わかった、師匠」

「よし、出発だ…ウヒヒ」

「直に落ち着くわ」

「そうだな」


下層に向けて歩き出した。

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