第23話 結婚秘話
その後、アリアの調査報告と共にウォールもことの経緯と推測を王都に報告したが戦力の増強はなく、同数の騎士団は再配置されたが質は変わらなかった。
フォルトの街は元に戻ったが冒険者ギルドの活気は戻っていない。
ギルド長は怪我で療養中、金級間近だった銀狼はギルドに現れずホワイトの死も知られている、そんな中で元気いっぱいのアリアと真面目な顔のソフィ、その白銀級の2人といるハルは目立っていた。
「やっとあたし達も動けるな!なんもしてくれないくせに報告だけは細かくさせやがって…」
「それが私達の仕事よ」
アリアが愚痴を言い、ソフィが宥める。
「依頼を受けるのか?」
ハルが疑問を口にする、答えるアリア。
「いや、この街の依頼は受けない、中層に用はない、暫く下層に篭る」
「初めて行くんだけど」
「下層に潜んでたヴァンパイアを殺せるんだ、そこにいる魔物なんてイチコロだろ」
「そういうもんか…」
「ハルの魔力量を上げる、魔闘術に関しては言う事はない、少し見ただけだがあれだけ反応反射できて、魔力を偏らせる魔統御まで使えるしな」
「へー、私はハルの戦いを見てなかったから知らなかったけど、アリア並みかそれ以上かしら」
ソフィが感心する。
「し、師匠より優れた弟子はいない!魔力量はまだまだだしな…それに風の加護を得たんだろ?どれくらい使える?」
体中に風を纏わせる、強風を。
ギルド職員が運んでいた書類を吹き飛ばし睨み付けられる。
「す、すみません…」
「弟子がすみません!まったく、師匠は大変だぜ」
「前から考えてたセリフ?言ってみたかったの?」
ソフィの言葉にアリアが動揺する。
「と、咄嗟に出た言葉だ!師匠としてな」
「声が震えてるわよ」
「コラ!揶揄うな!」
「ハル、アリアに教えてもらうのは戦いの事だけにしておきなさい」
「そのつもりだ」
「話が進まんだろ!2人とも真面目にあたしの話を聞きなさい!風の加護についてはウォールに聞け、かなりの使い手みたいだからな、あたしとソフィは火の加護を使う、感覚は似てるだろうが同じ加護のやつに教えてもらった方が変な癖がつかんだろう」
「後でウォールさんの所に行ってくる」
「訓練の方法と実際に見せてもらえ、感覚的な部分が多い、見れば明確にイメージできるようになるからな」
「わかった」
「ん?わかっただけか?ん?」
「わかったよ、師匠」
「グフフ、よし行ってこい、あたし達は準備しておく、終わったら東門に来い」
ハルが席を立ち職員にウォールの場所を聞きギルドを出ていく。
「無理矢理言わせるものなの?師匠ってやつは」
「どこが無理矢理だ!」
「…まぁいいわ、買い物いきましょう」
「ハルは自分の意思であたしを師匠と敬って…」
ソフィはアリアの言葉が聞こえていないかのように立ち上がりギルドを出て行く、アリアはごちゃごちゃ言いながらソフィの後を追って行った。
病院に着いたハルはウォールのいる部屋を訪れた。
「ウォールさん、ハルです」
「入っておいで」
個室のドアを開き中に入るハル。
「大丈夫ですか?怪我」
「まぁ、こんな格好だけど元気だから気にしなくていいよ」
ベッドに横になっているウォール。
「アリアが風の加護の使い方を教えてもらってこいって…」
「うん、いいよ、室内だから基本的な事だけになるけど」
「お願いします」
「風の加護はね切り裂くようなイメージが基本でね、放つにしても刃を投げる感じになる、ナイフを貸して」
ハルが剥ぎ取り用のナイフを渡す。
「見ててご覧」
そのナイフに風が纏わり付き一方に向かって流れ始める、その風は濃縮されていき刃に沿うように形取られる。
「これは切れ味を高める為の使い方だけど、実際の武器の切れ味にも依存するから装備の向上も忘れちゃダメだよ」
「わかりました」
「何度か見せるね」
何度か見せてもらいコツや訓練方法を教えてもらった。
「これが使えるようになれば手に風の刃を作って放てる事に使える、放つのは体のどこからでも出来るけど掌からが1番適してる、室内で見せられないから退院したらまた教えてあげるから」
「わかりました」
ナイフを返してもらいながら頷く。
「次はね移動に風を使うんだけど…ま、大丈夫だろう」
立ち上がるウォールは緩慢な動きだ。
「いや、そこまで…」
「気にしなくていいよ、痛くはないし、無理に動く訳じゃないから」
そう言うとハルから全身が見える位置に移動する。
「少し埃が舞うけど我慢してね」
言葉を言い切るとウォールの体が宙に浮く。
かなり強い風がウォールの足元から出ている。
「こうやって体の一部から放出し続ければ飛ぶ事だってできるんだよ」
そう言うと荒れ狂う風が巻き起こる、ウォールが浮き上がっていき天井に手をつける、そして風が収まっていき着地する。
「魔力を放出し続けるから魔力量が必要になる、もちろん魔力操作で多少は効率は良くなるけど微々たるものだよ」
めちゃくちゃになった室内を見回すハルがウォールに向き直り頷く。
ウォールがベッドに戻る。
「これは掌から訓練しようか、風に指向性を持たせて一定の魔力を放出し続けられるようにするんだ、それから強弱をつけていく、コツはね…」
これも同様、訓練方法とコツを教えてもらう。
「突風を起こして素早く動くやり方もあるから、それも退院してからだね、僕の魔力量と魔闘術の練度じゃ戦闘中は切れ味を上げるくらいしか併用出来なかったけど、ハル君なら色々な使い方ができるようになる筈だから頑張ってね」
「わかりました、ありがとうございます」
ハルが礼を言い頭を下げたところで扉が開く。
「なんでこんな散らかってるのかしら?」
ハルが振り向くと綺麗な女性が部屋に入ってきた、ウォールが答える。
「これはハル君に風の加護の使い方を教えたから少し散らかっちゃった、ハル君、妻のルカだよ」
「貴方がハル君?主人から聞いてるわ、いつか英雄って呼ばれるかもしれない子だって」
ハルが苦笑いしながら会釈する、そこで気付くルカが誰かに似ている事に。
ウォールがハルに話しかける。
「ハル君、精霊の住う山はどうだった?もしかして走って登ったりしてない?」
「走りました、1日と少しで頂上に着きました」
「やっぱり走ったのか!ロキの言ってた通り…それでも1日は早すぎないかい?」
「魔闘術で光るのに気付いたんで夜も走ってました」
「ハハハッ、ヤバイね!それに師匠そっくりだ!良い師匠に出会ったね」
「?」
「気にしないで、ハハハッ、あーこんなに笑ったの久々だな」
涙目になりながら笑うウォールを怪訝な表情で見るハル、先程気付いた事をウォールに話す。
「そういえば、頂上で女性と戦いました、奥さんに似てる」
ウォールの動きが固まる。
「その時、その女性がウォールさんの事をはな「ハル君!僕はそろそろ寝るよ!肩も足も痛くなってきたからね!次は退院してからだね!アリア達を待たせてるんじゃない!?早く行ってあげなさい!」
ウォールに言葉を遮られ、捲し立てられるような言葉に圧倒され席を立ち一礼して退室した。
ハルの退室した部屋では。
「あなた?何か隠し事ですか?ハル君が私に似てる女性がどうとか言ってましたけど?」
「隠し事なんかないよ!1つもない!それに君ほど綺麗な女性に似てる人なんてこの世にいないよ!ハル君の勘違いだよ!」
「…そうですか?それならいいんですけど」
ウォールはハルが精霊の住まう山で戦った女性に一目惚れしていた、運命の人だと思うほど。
しかし玉砕し、意気消沈して帰ったウィド村でその女性に似ていたルカを見つける、猛アタックし結婚したのだ。
これはウォールが墓場まで持っていく秘密の1つだ、詳しく語られる日はきっとないだろう…
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