第21話 師匠

「待ってくれ!赤髪の…」

アイザイアが上半身だけの体から恐怖に染まった叫びをあがる。


ハルは構わずファルシオンを振り下ろす。


「赤髪のヴァンパイア!あいつの…」

ハルと唯一会話できた内容で気を引く為話すが、ハルのファルシオンが止まる事はない。


「あいつの名を!名前を…」

ハルが手を止める、だが止まったのは一瞬で再度動き出す。

名前を聞いたところで意味がない、何故ならヴァンパイアは皆殺しにするから…


「ま、待って…」

アイザイアはその言葉を最後に首を切り落とされ、斬り刻まれた。

暫く下半身が踠いていたが動かなくなり、体の中央にあったであろう肉片から魔石がこぼれ落ちた。


ハルは初めてヴァンパイアを殺した、

少しは溜飲が下がるだろうか、小さいながらも達成感を感じるだろうか。

何も感じず、何も変わらなかった…

あの時、憎しみ、怒り、嫌悪、負の感情が限界まで達している、やはりその対象を駆逐しない限りハルに安眠は訪れないだろう。


魔石を拾い上げニールとウォール、アリアのいる所へ歩く。


「ハル…だったか?あたしの本を読んだだろ?筋もいいようだしで…」

アリアがハルに話しかけるが、それを遮るようにハルがニールに聞く。


「ホワイト…やられたの?」

ニールの側で倒れているホワイトを見ながらハルもニールも沈痛な表情をしている。


「…あぁ…やられちまった…」

「仇はとったから…とり続けるから」

「…あぁ…とり続ける?」

「あたしの話を…!」

アリアが話しに割って入るが、ウォールがアリアの口を押さえ「空気読んでよ!」と小声で言っている。


「ロキは?」

「ロキは大丈夫だ…いや、とり続けるって…」

そうハルが聞き、ニールが答えている時に馬の蹄がこちらに近づいてくる音が聞こえ、皆の意識がそちらに向く。

すぐにロキの姿が見えた、後ろにも誰か乗っているようだ。


「間に合ったか!?」

ロキが馬から降りながら問う。

ウォールが答える。


「アリアを呼んで来てくれたのはロキだったんだね、あぁ、ヴァンパイアはもういないよ、ハル君が倒してくれた」

「ハル!?なんで?帰って来るの早すぎないか?…それはいいか、ホワイトは?」

ハルを見つけ驚くロキ、だがホワイトの姿が見えない、あの大きな体が。


「そこにいたか、気絶でもして…」

横たわっているホワイトを見る、足を見て、腹を見て、胸を見る…胸に大きく開いた穴を。


「おい…嘘だろ…おい…ニール!!」

ニールに掴みかかるロキ。


「なんでホワイトが死んでんだ!!」

「…」

「実力差は絶望的だった!!だが逃げる事はできた筈だ!!」

「…おれが、戦って…おれのせい」

「ふざけんな!!」

殴り飛ばされるニール、膝をつくロキ。


「くそ…間に合って無いじゃないか…」

ロキの言葉が虚しく響いた…



「ホワイトを運ぼう、それに避難してる人達を戻さないとね」

ウォールが誰に向けるでも無く話しホワイトに右足を引き摺りながら近付いていく。


「俺が運ぶ」

ニールが立ち上がりながらそう言い、ホワイトを担ぎ上げる。


「アリア達もついて来てくれるかい?ヴァンパイアの事で聞きたいことがあるから」

ウォールの言葉にアリアが頷いて答える。


ニールが先頭を行き、その後をロキとウォールが歩く、続いてハルが歩き出した所でアリアがハルに話しかける。


「おいハル、あたしの話を聞きな」

「え?誰?」

「さっきアドバイスしただろが!ウォールもアリアって呼んでたの聞いてただろ!?」

「なんですか?アリアさん?」

「敬語はいらねぇ、そういや自己紹介はしてなかったな、白銀級のアリア、皆はこう呼ぶ孤高のヴァンパイアハンター!とな」

「自分で言ってるだけでしょ?それに私がいるから孤高じゃ無いし」

そう言って話しに加わったのは馬に乗って来ていたもう1人の女性。


「アリアは自信過剰なとこがあるから、話を鵜呑みにしちゃダメよ」

ハルに喋りかける女性。

ハルと同じくらいの背丈、少し紫がかったボブカット、顔立ちは柔らかな印象を受ける、だが雰囲気はアリア同様強者のそれだ。

ロキの乗っていた馬を連れて来てくれている。


「ハル、コイツとは喋らなくていい、すぐに言い包められちまうからな」

「コイツでは無く、ソフィです」

「話ってなに?」

「あぁ、お前あたしの書いた『これを見ればあなたもヴァンパイアハンターになれる!!アリアの奇天烈大冒険!!』を読んだだろ?戦い方でわかった」

「題名からして売れないわよね、それ、実際大赤字だったでしょ?、それに奇天烈って意味わかって使ったの?」

「ソフィと口論はしない、そう心に誓っている、だから答えない、なにも」

「読んだ、ヴァンパイアを追っかけて倒しての繰り返しだった」

「中身でも売れる要素がないわね」

「…黙って聞いてれば!この野郎!」

「黙って聞いていないし、私は野郎ではなく女です」

「こんの…!、し、静かにしていてくれ、あたしはハルと話してる」

「わかりました、適宜訂正が必要な時だけ話します」

「その言葉使いが憎たらしい…!、んんっ、ハル、あたしが教えてやるよヴァンパイアの殺し方」

「えっ…?」

「自分で言うのはなんだけど、あの本は売れなかった、それを見つけて読んで戦闘に使ってるなんてよっぽどヴァンパイアが嫌いなんだろ?」

「…読んだ本の中でヴァンパイアの事が1番細かく書いてあったから取り入れただけだ」

「ヴァンパイアを調べまくってるって事だな?それであたしの本が1番だったと…こりゃ続編書くしかないな」

「やめてね、お金の無駄遣い」

「…ま、まぁそれは置いといて、そういやさっきのヴァンパイアが言ってた赤髪の奴、戦ったことあるぞ」

「!!」

「って言っても1度も攻撃は当たらないし逃げられた、いや逃された…かな、その時色々あってな、あたしもそいつを追ってる、殺すためにな」

「教えてくれ」

「その時のことはあんまり…」

「違う、ヴァンパイアの殺し方を教えてくれ」

「いいぞ!弟子にしてやる!」

「弟子?」

「アリアはね師匠って呼ばれる事が夢なの、そう呼んであげてね?じゃないと拗ねちゃうから」

「いらん事を言うな!」


ハルに新たな師匠?が出来た。

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