第18話 お喋り

夕刻のフォルト、冒険者ギルドのギルド長室にて。

「まだ金級試験はできねぇのか?」

「高位冒険者が来ないからまだ無理だね、最近やたら聞いてくるけど、なんでそんなに急ぐんだい?」


ウォールとニールが話している、室内にはロキとホワイトもいる。

「それは…」


ロキとホワイトが同時に答える。

「ハルに尊敬してもらいたから、ニールが」

「ハルに頼って貰いたいからだ、ニールが」

「ハハハッ、なんだいそれは?」


ニールが慌てる。

「ち、違う!いや、ちょっとはあるけどよ…元々受ける予定だったろが!」


ロキが宥める。

「悪い悪い、ニールがとは言ったが、俺達も同じ気持ちだ」


ホワイトが続く。

「ニールは素直じゃないが、ハルの隣で戦う資格が必要なんだ」

「資格ね…」


ウォールは少し思案して続ける。

「そんなに急いでるのなら状況を説明した方が納得してもらえそうだね」


3人が頷く。

「一月と少し前、ドスの異常を報告してきたね?その調査依頼を金級以上で最寄りの街に頼んだんよ、それで金級なりたてのパーティーが来たのが1週間後、それから原因が分かるまでか1ヶ月調査してもらう依頼だった」

「だった?」


ニールが口を挟む。

「まだ断定は出来ないけどね、1週間森に入って3日休むってサイクルで予定を組んでもらってたんだけど2回目森に入ってから帰ってきてないんだよ」

「それって…」

「まぁ期限の1ヶ月にはあと少しあるんだけど、最初の調査報告で原因が全くわからなかったみたいだから、休み返上で調査しているのかもしれないしね」

「…でもそれが金級試験となんの関係が」

「原因が分かればこのパーティーに頼もうと思ってたんだよ、試験官」

「金級なりたてかよ…」

「ハハハッ、その言葉はわからなくもないけど…でも断られる場合も考えて最寄りの街にも通達してたんだ、金級試験の試験官募集って、そうしたら白銀級が来てくれる事になってね」

「なんてこった!俺達の試験官が白銀級だぞ!」

「落ち着いてね、元々フォルトに来る予定みたいだったんだけど、そのついでみたい、で予定を崩してまで早く来る事はないらしくてね、教えてもらった到着予定は2週間後だね」

「よっしゃ!あと2週間だな!」

「一応戻ってきて原因が分かれば金級なりたてのパーティーに頼む事も出来るけど…こっちの方が白銀級待つより早いから、急いでたみたいだしこっちに頼む?」

「いや、待つ!白銀級を待つ!いくらでも」

「ハハハッ、現金だね」


ロキが話す。

「笑ってる場合じゃないんじないか?その金級パーティーもしかしたら…」


ウォールが答える。

「一応期日まで待つよ、でも帰ってこなければまた依頼をだす調査兼捜索依頼をね」


ロキとホワイトは眉間にシワを寄せ思案顔、ニールはもう白銀級のことしか頭になさそうだ。


ウォールが柔らかい表情で問う。

「ところで、ハル君は魔族に恨みでもあるの?」


3人が虚をつかれた表情になる。

「あの若さで魔闘術を使い加護を得れる程の力を身につけている、よほどの感情、よほどの目的があるはずなんだ、そこで金級試験を急ぐ理由にハル君の名前が出てきた、金級イコール魔族の認識があるからね」

「そ、それは…」


ニールがロキとホワイトの顔を見る。

ロキが話しだす。

「俺達も直接聞いたわけじゃない、勝手に推測しただけだ…だけど、魔族に恨みかトラウマが…いや両方あるんじゃないかとは思ってる」

「そうなんだね…まぁ詳しく聞く気はないから」


少し空気が重くなる。

そこにミランダが部屋にとびこんでくる。

「騎士団が壁の、東門のすぐ外で戦ってます!」

「冒険者ギルドになにか要請はあったかい?」

「い、いえ、何も…」

「じゃあ慌てる必要はないよ、でも見に行かないとね、後で何言われるかわかんないし」

「俺達も行く」


ニールが言い、3人が立つ。

「行っても何もす事はないかもしれないけど…それじゃ行こうか」


4人で部屋を出て東門へ向かう。

ミランダは通常業務に戻ったがソワソワしっぱなしであった。


東門に向かう途中から喧騒が聞こえてくる、徐々に悲鳴も混じりだす。

走る4人、東門に着いた時には少ない悲鳴しか聞こえなかった。


日が沈み篝火が焚かれた中に映る光景は凄惨だった。

数十人いたであろう騎士団が血の海に沈んでいる。

最後に立っていた鎧姿の騎士は頭を引きちぎられているところだった。

「なんなんだこれ…」


ニールが声を出すが答える者はいない。

引きちぎった頭を投げ捨てる者が篝火に照らされ鮮明になる。

男性、白い髪に赤い瞳、背は高く痩せている、端正な顔立ちだが血色が悪い、ラフな格好だが清潔感がある、この状況で返り血をほとんど浴びていない。

血の海を街に向かって歩いてくる。

「男の血は臭くてかないませんね、まぁ魔物よりはマシですが…」


その声を聞いたウォールが声を発する。

「そこで止まってもらえるかな?」

「何故です?」


男は歩みを止めない。

ロキが矢を放つ、ニールとホワイトが駆ける。

ウォールは男を観察している。


男は迫る矢を無造作に掴み捨てる、ニールが斬りかかる、爪で受けられ弾かれる、構わずもう一本の剣を振るう、男は半身で躱す、そこへホワイトの盾を構えての体当たりが迫る、が片手で受け止められる、微動だにしない、ニールは弾かれた剣を再度振るう、だが男の蹴りが腹に入り吹き飛ぶ、またロキの矢が飛んでくるが払い落とされる、ホワイトはニールが吹き飛ぶのを見てびくともしない相手をこのまま力任せに押していても無駄だと思い退こうとした瞬間、貫手が盾から突き出てくる、だが当たりはしなかった、分厚い盾だった為か軌道がそれたようだ、盾を引き抜きながら飛び退くホワイト。


絶望的な実力差を感じる3人。

そこにウォールが声をかける。

「ロキ、ナイフ貸してくれる?」

「…あぁ、剥ぎ取り用だけど」


受け取るウォール。

「君達が勝てないならこの街にいる冒険者は誰も勝てないから、誰か来ても止めてね、君達も手を出さないで」

「あんた怪我で冒険者出来なくなったんじゃ…」

「まぁ何とかするよ」


そう言うと男に向かって歩き出す。

男も歩いて来る。

3mの距離でお互い止まる。

「この街に何か用かな?」

「あなたに答える義務はないですね」

「そう言わずに、食べ物が欲しいの?」

「…お喋りをしに来たのですか?」

「話し合いで解決できるならそれが1番だからね」

「では、この街は私がいただきます」

「それは困るな!いっぱい人がいるんだよ」

「ですから、それを含めて私がいただきます」

「それ呼ばわりか…決裂だね」

「そのようですね」


ウォールの体が光を放つ。

「あなたなかなかやるようですね」

「諦めて帰ってくれる?」

「ご冗談を」


数秒の沈黙…


ウォールが飛びかかり首に右手に持ったナイフを振るう、男は軽く仰け反り躱す、躱されたナイフを止め瞬時に握りを変え胸に振り下ろす、男は迫るナイフを右手で弾く、弾かれた衝撃を利用して半回転しながら腹に蹴りを放つ、男は足でガード、と同時に左手で貫手を顔面に突く、ウォールは首を捻り頬に傷を作りながらも避ける、その出された腕目掛けてナイフを振るう、腕を切り飛ばした。

切り飛ばした直後前蹴りを放ち男の腹に刺さり後退させる。

「なかなかやりますね、そんな貧相な刃物で」

「まぁね、道具は使い手によるよね」

「たしかに、クククッ」

「何か可笑しかったかな?」

「いえ、久々に楽しくなりそうだと思いまして」

「じゃあ期待を上回るしかないね」

「私はアイザイア、貴方は?」

「ウォールだよ、よろしくね」

「短い付き合いになると思いますが、よろしくお願いします」


切り飛ばした腕が黒いモヤに変わりアイザイアの腕があった場所に集まる。

「やっぱりかー、そうならそうと言ってよ、ヴァンパイアのアイザイア君」

「クククッ、知ってなおその態度、気に入りました」


銀狼の3人が目を見開く。

魔族、しかもヴァンパイア。

「ロキ!君がしなくちゃいけない事はわかるね!?」


門のそばにいたロキが街の中へ走り出す。

「おやおや、援軍ですか?」

「どうだろうね?」

「まぁ今は貴方と楽しみましょう」


ウォールの顔に余裕は無くなっていた。

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