第15話 助平
「も、もう、だい、大丈夫」
担がれていた為声が途切れ途切れになるハル。
声を聞いたホワイトが。
「止まってくれ!」
ロキが引き返し戻ってくる。
殿をしていたニールが駆け寄る。
「ごめん…」
「いや、気にするな」
ホワイトが答える。
「ここで休憩しよう」
ロキの言葉に2人が頷く。
誰も話さず、誰も座らない。
少しの沈黙を破りホワイトが話す。
「大丈夫なんだな?ハル」
「うん…もう大丈夫」
「わかった、いくぞ」
ニールが困惑しながら。
「いくぞって…」
ホワイトが指示を出す。
「ロキとニールが先頭、殿は俺がやる、ハルは真ん中だ、時間はあるゆっくり帰ろう、いくぞ」
ロキが歩き出す、ニールがホワイトを見ながら歩き出し少しハルを見てロキを追った。
俯いていたハルがホワイトを見る。
「いくぞ」
ホワイトの言葉で歩き出すハル。
少し遅れて歩き出すホワイト。
後方側方からの敵は無く、前方に現れた魔物は数が多いものはなくロキとニールで手早く対処した。
ウノの中腹から森を抜けるまで足を止めることはなかった。
フロンティーラの森を抜けた所で皆集まる。
ニールが話す。
「終わったな、あ、これハルの袋にまとめておいてくれ」
袋から取り出した一角ホースの素材をハルに差し出す。
袋を広げて受け取るハル。
「ハル…大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「そうか…あの時何が起こったんだ?」
ロキとホワイトが顔を顰めるが止める事はなかった。
「あの時は…嫌なことを思い出したんだ」
「一角ホースが嫌だったのか?」
「いやそうじゃないよ、その…死体の感じが似てたんだ…母さんに」
「どういう…」
ロキが割って入る。
「立ち話もなんだ!歩きながら話そう…ニール、金級試験のことで話があるこっちに来てくれ」
早いタイミングで歩き出していたロキがニールを呼ぶ。
「お、おう」
ニールが追う。
ホワイトがハルに声をかける。
「腹が減ったな、帰ろう」
ハルの肩をポンと叩き歩き出すホワイト。
ハルも歩き出す。
少し先をいく2人のやり取りを眺め、二歩程前のホワイトを見上げる。
3人とは付き合いは短い、だがハワードに対する気持ちに近しいものを感じ、少しだけ笑顔になるハルだった。
ギルドに着き精算を済ませる。
ギルドの前で3人に笑顔で話しかけるハル。
「次はヘマしないからまた誘って!じゃあね!」
小走りで離れていくハルにニールが。
「お、おう!任された!」
と声をかけた。
「任されたはおかしくないか?」
「うるせぇ!慌てたんだよ!」
ロキのツッコミに赤くなるニール。
ホワイトが話す。
「元気になって良かったな」
「あぁ…で、ハルはあの時どんなだった?」
「飯を食いながら話す」
ロキとホワイトが歩き出し、その後をまだ少し赤い顔のニールがついていく。
翌日は休みを取り、その次の日。
ハルはギルドに来ていた。
「ギルド長に許可証をもらいたいんですけど、精霊の住まう山の」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
職員に促されギルド長室に通される。
「ハル君、行くのかい?」
「はい」
「じゃあこれが許可証ね、麓のウィド村で見せて」
許可書を受け取る。
「それと精霊の住まう山の挑戦基準が見直されたのは知ってるね?それの原因がウィド村にいてね、偏屈なじい…あー、村長なんだけど何か言われるかもしれないからこれも持っていって」
カードケースのようだ、中にカードは入っていない。
「見せれば大丈夫だから」
受け取り軽く頭を下げて部屋を出ようとした所でウォールが声をかける。
「ハル君、正々堂々戦うんだよ、先輩からのアドバイスだ」
よく分からなかったが頷き部屋を出る。
「ハル君なら心配いらないかな」
閉まった扉を見ながらウォールは呟いた。
この大陸には精霊の住まう山と呼ばれる山が2つある、1つは火の、もう1つは風の加護を授けてくれる山だ。
加護を得れば精霊に干渉出来るようになり魔法と呼ばれるものが使えるようになる。
大陸の北西と南西、対になる場所にそれぞれあり、ハルが向かうのは南西の山である。
人が住む領域は半円状で、最北から最南へと山々が連なりそれに沿うようにフロンティーラの森が存在する、魔族領も半円状では無いかと推察されている、その為魔族領の対になる場所にも精霊の住まう山があるのではとも言われている。
人の住む領域の最南端の街フォルト、海と森が近い為賑わいはあるが防衛意識は低い、常駐している騎士団も20名程である。
数百年前、魔族の侵攻があったのは中央付近、稀に現れる魔族も中央に偏っている、その為森に近いとは言え、外に行く程、危機感は薄くなっていく。
ハルは馬車に乗り継ぎ2日間、精霊の住まう山の麓のウィド村に着いた。
馬車での移動の疲れと体が凝り固まっている為、村で一泊して挑む予定だ。
「すみません、許可書は誰に見せれば…」
「あらま、こんな若い子が…、それは村長に見せるんだよ」
宿の者に尋ねたハルは教えてもらった村長宅に向かう。
「すみません!許可書をもってきたんですが」
数秒して扉が開く。
「…入りな」
厳つい男が促すままに家に入る。
「あの…これ」
「俺じゃねぇ、奥の部屋の爺さんに渡しな」
指差された扉を見てそちらに進む。
「許可書を…」
「えらく若いのが来たの!命を無駄にしたらいかん!」
「えっと…きょか…」
「そんなもん関係あるか!」
破り捨てられる許可書。
「こんな紙切れなんのあてにもならん!この2年山に入って帰ってこんかったもんがどれだけおると思っとる!?」
「わ、わかりません」
「100じゃぞ!100人!1人も戻っておらん!」
「…」
「聞いとるんか!?」
「は、はい」
「その前から挑戦するもんは多かった、それでも帰ってくるもんは度々おった…加護を得られるくらいだからのぉ、命がけということもわかっとる、じゃが近頃は帰ってくるもんがおらん!こうやって許可書を持ってきて顔を合わせる、中には1週間村に滞在して山に入るもんもおる、見知ったもんが死ぬのはつらいんじゃ…」
「許可書があれば入れるって…」
「聞いておったんか!?その耳は飾りか!?国に許可の基準を厳しくしてくれと言って話は通ったが数ヶ月待てと言われての、それ迄は誰も山には入れん!」
「困ります」
「こっちが困っとるんじゃ!新しい許可書を持って出直せい!」
「…」
ウォールの言葉を思い出しカードケースを取り出し、村長に見せる。
「これ…」
「なんじゃ」
分捕られる。
「…ウォールギルド長に見せるように言われたんですけど」
「あのスケベ小僧か!これはあやつの…なるほどのぉ、お前が新しい基準を満たすだけの強さがあると保証する意味で持たせたんじゃろ…わかったわい、山に入ってよい」
「どうも」
「風の精霊の住まう山については調べてきておるんじゃろ?」
「はい、一通りは」
「ならワシがいう事はない、村の奥から山に入れる、門番には伝えておく好きな時に行くといい」
一礼して部屋を出る。
「すまんな、怒鳴り散らしてたが心配で言ってるんだ」
最初の厳つい男が話しかけてきた。
「いえ、山に入れる許可は貰えましたし」
「へー、最近じゃ珍しいな、…そういやスケベ小僧って聞こえたがもしかしてウォールのとこの冒険者か?」
「はい、フォルトの冒険者です」
「そうか、あいつがギルド長とはな…あいつがこの村に初めて来た時1週間いてな、毎日村の女を取っ替え引っ替え、終いには村1番の美人を連れて行っちまった」
「…」
「おっと、悪い、こんな話どうでもよかったな」
「いえ、良い土産話が出来ました」
「そりゃ良かった、それじゃ気をつけてな」
軽く頭を下げて家を出る。
宿で1日休み、いよいよ精霊に住まう山に挑戦だ。
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