第14話 動揺
一角ホースがいる場所に差し掛かる。
「少し休憩しよう」
ロキの一声で皆が集まる。
「息を潜める時間が長くなる、今のうちに水分と食料を腹に入れておこう」
干し肉と水を取り出す。
「ハル、言ってた通りここからは俺が先頭だ、一角ホースを見つけたら二手に分かれて挟み撃ちする、合図を見落とすなよ」
「わかった」
最低限の会話と補給で行動を開始する。
1時間程探し少し開けた場所で見つける、一角ホース5頭。
ニールとハル、ロキとホワイトに分かれる。
息を潜め位置に着く…
ロキとハルが同時に矢を放つ、別々の標的だ。
ニールとホワイトが飛び出す、ロキの放った矢は肺があろう所に突き刺さる、ハルの放った矢は角度が悪く腹に浅く刺さっただけだ。
ニールとホワイトにそれぞれ1頭ずつ突っ込んでくる、矢を受けた2頭は嘶きを上げる、もう1頭はどちらに行くか逡巡しているようだ。
ニールは体当たりを避けながら足に向かって剣を振るう、切り落とせなかったが骨は砕いたようで転倒する
ホワイトは受け止める、受け止め盾を巧みに使いその場に縫い付ける。
ニールの後を追ったハルはニールが斬りつけ転倒した1頭を飛び越え、ハルの矢を受け逃げ出そうとしている奴の後ろ足にファルシオンを叩きつけ、切り飛ばした、1頭は既に逃げ出しており、ロキの矢を受けた1頭も緩慢な動きで逃げ出そうとしている、そいつに向かおうとした時。
「こっちが先だ!」
ロキの言葉でホワイトが相手している方に向かい足を切り落とした。
ロキは緩慢な動きで逃げ出した1頭に二の矢、三の矢を放つ。
倒れ踠いている一角ホースにそれぞれとどめを刺し素材を剥ぎ取る、矢が複数刺さった1頭はロキが追い素材を剥ぎ取り戻ってきた。
「あと6頭だな…ハル、機動力を奪うことが最優先だ、無傷の状態で逃せば追いつけない」
「わかった」
「状況によって標的を変えなくちゃならないから難しいが、ハルならすぐ慣れるはずだ、一角ホースの素材はハルの袋にまとめて入れておいてくれ」
「わかった」
次の一角ホースを見つけるのは時間がかかった、また5頭だ。
今回は完璧だった、展開は同じだがハルの動きが違った、ハルの放った矢はしっかりと突き刺さり、ニールの後を追いながら更に矢を放つ、逃げ出そうとしていた1頭に手傷を負わせ機動力を奪う、初めに矢を放った1頭の足を切り落としその勢いのままホワイトの方に向かう、ニールとロキが手傷を追った2匹を追い仕留める。
「これで9頭、あと1頭だが時間切れだ戻ろう」
ウノに戻り夜営をする。
食事を終えハルとホワイトが休み、ロキとニールが見張だ。
暫く時間が経ちニールが口を開く。
「なぁ、どう思う?」
「ハルか?どうって…」
「わかんだろ?」
「…まぁな、知識はあるが経験は浅い、知識があるから飲み込みが早いが、その知識は冒険者になる前から蓄えていたんだろうな」
「魔闘術といい、その知識といい…なにがそうさせてんのか…」
「うーん、最初に感じたのは強くなることが生きる目的なんだろうなって」
「生きる目的…」
「ハルの力は最初から持ってたもんじゃなく膨大な時間を費やして手に入れたもんだ、子供の頃からそんな事できる奴は普通じゃない」
「…」
「ただ強くなるんじゃなくて、強くなって何かを成したいんだろ?それが生きる目的なんじゃないかな…」
「聞いて…」
「俺達が聞き出すようなもんじゃない、いつか話してくれるかもしれないし、待つべきだ」
「…わかってるよ」
「本当にわかってんのか?ハルに嫌われちまうぞ?」
「わかってるって!」
「声を落とせ、バカ」
「…」
「まぁ気持ちはわかるよ…この間セリルがよ」
「惚気かよ」
「いや、ハルがセリルの働いてる店に魔法の袋買いに来たらしくてよ…」
交代の時間が近づきハルとホワイトが起きる。
「交代だ」
ホワイトの声に2人は頷き寝床に向かう。
軽く水分を補給してホワイトが話し始める。
「ハルは女に興味が無いのか?」
「えっ…あ、あるよ、人並みに」
(面白そうな話してんな!)
(ホワイトらしからぬ…あーニールの為か)
寝入ってなかった2人に聞こえていたようだ。
「その割に浮ついた話は聞かないな」
「忙しいから…かな?」
「銀狼はモテるぞ(ニールがだが)」
(たしかにモテてる)
(ニールだけな…俺にはセリルがいる)
「モテたくて冒険者になったんじゃないから…」
「そうなのか?俺達はそうだった(ニールだけだが)」
(それが1番の理由だな)
(セリルと出会ったから否定はできない…)
「今は装備とか道具とか…魔力量を増やす為に頑張らなくちゃいけないんだ」
「そうか、精霊の住まう山に挑むんだったな」
「そう、加護を手に入れたいんだ」
「魔法使いになりたいのか?」
「うーん、強くなる為、かな…」
「今でも十分強いぞ、自信を持っていい」
「ありがとう…でもまだ足りないんだ」
「足りない?」
「金級を目標にしてるんだ」
「なるほどな…俺達は3人で金級に挑むつもりだが、ハルは1人のまま金級になりたいのか?」
「…できれば」
「そうか…それは相当な強さが必要だ、だがハルなら必ずなれるだろう」
「うん、頑張るよ」
(…)
(金級…魔族か…)
一般的な金級の目安は魔族と戦えるか、倒せるか、というものだ。
魔族と一括りに言えどその強さは幅広いが金級になれる者の強さが魔族の強さの最低ラインと認識されている。
冒険者を仕事として捉えているものは金級には進まない、そこには高い壁があるからだ、金級に進む者は夢や憧れが主な理由だ、偶に戦闘狂などの特殊な者もいるが…
それともう一つ、復讐を望む者だ。
魔族、特に人型の者は残虐性が高い、魔物は人を食料として見ている為魔物に殺される場合はほとんど一撃だ、だが魔族は違う殺しを楽しむ。
魔族に襲われ生き残る者は少ない、そこで殺戮が始まるからだ。
生き残ったとしてもその残虐性を目の当たりにした者は精神に異常をきたす、復讐しようなどと言う者は極めて稀だ。
森に朝日が差し込み4人は動き出し準備を整える。
「最終日だ、いや最終日になるはずだ、あと1頭、手早く済まそう、行くぞ」
ロキの掛け声で行動を開始する。
しかし、トレスに入りすぐ、先頭を行くハルが。
「あれ見て、倒れてるの一角ホースじゃない?」
その言葉に3人が確認する。
「確かに…あの角は間違いねぇな、でも…なんか小さくねぇか?」
「小さいというより、萎んでる?昨日通った時はいなかったはずだ…」
「暫く様子を見るか?」
ニール、ロキ、ホワイトが意見を言い、イレギュラーな状況に警戒を高める。
「少し待ってろ、辺りを見てくる」
ロキが3人から離れる。
暫くして戻ってきたロキが。
「近くに魔物も冒険者もいない…近づいてみよう」
一角ホースの死体が鮮明になる、その干からびた異様な姿が。
「なんだ?干からびてる?他の魔物にやられたにしちゃ傷もねぇし…魔石は…あるな」
「魔石があるなら冒険者がやったんじゃないな、剥ぎ取ってもいいだろう」
ニールとロキの会話で剥ぎ取る事に決まる。
「ハル、袋を持ってきてくれ…ハル?」
ロキの呼びかけに返事も近づく音もない。
ロキとホワイトが振り向く、ニールは剥ぎ取っている。
「どうかしたのか?」
「辺りに魔物の気配はないぞ」
2人の呼びかけにも反応しない。
ホワイトがハルに近づく。
「大丈夫か?」
「コ…ス…」
「?」
「コロス…」
「!?大丈夫か⁉︎ハル⁉︎」
ホワイトがハルの肩を掴み強く揺するり顔を覗く、生気のなかった表情から若干戻ったが。
「あ…あ…これ…」
「ハルの様子がおかしい!ここから離脱するぞ!」
ロキはすぐさま動き先行する、ホワイトはハルを担ぎ上げ走り出す、ニールは素材を手に持ったまま駆け出す。
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