第13話 赤面

ロキが矢を放ったのを合図にブルドガーと呼ばれる牛型の魔物4匹に向かって3人が飛び出す。


ロキの放った矢は首を狙ったが3人の動き出しが早かったのか、大きく動いてしまいその大きな角に弾かれた。

こちらに突進してくる。

ハルが走りながら短弓の速射性を活かし2本の矢を射る1本は胴体に刺さり1本は足に刺さる、刺さったタイミングが良かったのか転倒する。

2体の突進を受け止めるホワイト、押し戻されるが踏ん張る、1体はニールが引きつけぶつかる瞬間身を翻しすれ違い様に足を切り落とす、勢いをを落とさずハルが転倒させたが立ち上がりつつある1匹へ向かう。

踏ん張っているホワイトに追いついたハルが、ホワイトが引きつけ押し合いしている2匹の首を切り落とす。

ニールが立ち直った1匹に斬りかかろうとした瞬間、ロキの矢が首を貫いた。

最後に足を切り落とされ踠いている1匹にホワイトがとどめを刺す。

「今夜はご馳走だな!」


ニールが上機嫌だ。

「さっさと解体してしまおう、ハル、角はこっちに集めてくれ」

「わかった」


剥ぎ取りと解体が終わり次へ。


暫く会敵することはなかった、が。

後ろから強襲される。

全長5mはある黒豹の魔物、単体のようだ。

ハルが気づいた時には敵は駆けていた、「来た!」声で合図を出したが、敵は速い。

低く飛びかかってくる、右の前脚の爪をギラつかせハルを押さえつけようと伸ばしている。

ニールの位置と体勢が不透明だ、どちらに避けるのか伝える時間もない、避ける選択肢は無い。

(他に敵がいても皆んながフォローしてくれるはずだ)

魔力操作で魔力を振り分ける、両足に2割ずつ、左腕と盾に7割、右手のファルシオンを振り上げる。

踏ん張り、盾で右の前脚の攻撃を外へ弾く動きと同時にファルシオンを振り下ろす、弾いた瞬間両足以外の魔力を右腕とファルシオンに込め、黒豹の頭に力任せに叩きつける。


轟音と共に砂埃が巻き上がる。

砂埃が晴れると更に攻撃したのか顔が陥没して中身が少しはみ出した頭にファルシオンを突き立てているハルの姿があった。


「ハンパじゃねぇ!」

ニールの声が響く。


「声を落とせ」

ロキに注意され口を押さえるニール。


「悪い、見つけるのが遅れた」

ハルが謝りロキが答える。


「コイツ相手に先に見つけるのは至難だ、俺でも出来るかどうか…中層トレスの暗殺者って呼ばれてるくらいだからな」

「なんかカッコいい」

「コイツがいるのに殿をハルに任せたのは1人で倒せると思ったからだ、案の定瞬殺だ」

「皆んながいたから目の前の敵に集中出来たんだ」

「ハハハッ、演劇みたいなセリフだな、おっと、あんまり長話する場所じゃないな、さっさと剥ぎ取っちまおう」

赤らんだ顔のハルを他所に3人は剥ぎ取りを進める。


これ以降は戦闘はなくウノに戻った。

夜営のイロハをハルに三者三様に教えながら準備を終えた。


「この肉うまいんだよなー」

上機嫌で肉を炙っているニール。


「ハルは初めてか?」

「あぁ、食べたことないよ」

「うんまいからいっぱい食え!」

ニールが次々に肉を炙る。


「そんなに食ったら動けなくなっちまうぞ」

ホワイトが注意する。


「大丈夫だ、ハルは育ち盛りだからな」

よく分からない返答をするニール。

ウノとは言え、トレスに近い場所だ警戒を怠るのは拙い。

そんな心配を他所にニールがハルに話かける。


「それにしてもさっきのは凄かったな、魔力を偏らせるのを瞬時にやったんだろ?」

「見えるの?」

「いや、ただそうじゃねぇと説明出来ない動きだったからな」

「なるほど」

「しかしあれは出来る気がしねぇ、魔闘術を維持したまま更に魔力操作するなんざ脳ミソ2つある様なもんだぜ、ハルは脳ミソ2つだな!」

「褒められてる気がしない…」

「めちゃくちゃ褒めてるだろ!脳ミソ2つあるんだぞ、2倍だ」

「そう…なのか?」


日が暮れ、食事を終えた。

ロキとハルが先に見張をする。

1人の時の夜営の仕方や斥候のコツを話していると、人の大きさ程あるムカデの魔物に襲われるがロキが一早く気付き、ハルが即対応して何事もなかったかの様に会話を続ける。

流石に魔力操作の訓練はしていない…と思いきやロキと会話しながら魔力をグニャグニャ動かしていた。


交代の時間になりニールとホワイトが起きる。

「ロキとハルは休んでくれ」

「わかった」


ホワイトの言葉にハルが返事をし、休息を取る。

暫く無言で見張をしていたニールとホワイト、魔物の気配は無い。

「なぁ…すごかったよな、ハル」

「またお前は…」

「いや、そうじゃねぇ…そういうんじゃなくて…」

「じゃあなんだ?」

「なんであの歳であそこまですんのかなって…」

「…」

「15なんてまだガキだ、俺達だってそうだった」

「特にお前はクソガキだったな」

「うる…、そうだよ、クソガキだ、上手くいかなきゃ投げ出すし、金が入りゃ遊んでた」

「ガキなりに楽しかったがな」

「…あぁ、楽しかった、だがそういうもんがハルからは感じられねぇ、時間があれば強くなる為の鍛錬、金があれば装備や道具に使う」

「ハルの今の装備を見た時は目が回りそうだったがな」

「ハハハッ、たしかに」

「何かしらの事情があるんだろうが、人には触れられたくない部分がある」

「わかってるよ…だから聞いてないだろ」

「ハルは変わったところはあるが、いい奴だ、冒険者としても…少しやり方は異常だが真っ当に成長してる」

「異常だよな…森を駆け回るなんて」

「なんたって小鬼だからな」

「ハハハッ」


魔物の襲撃はなく空が明るんできた頃、ロキとハルが起き、軽く朝食をとり片付けを済ませた。

「今日は依頼の魔物を狩る、数が揃うまで探し続けるが群れと当たればすぐ終わる、気を引き締めていこう」


3人が頷く。

「陣形はハルが先頭、斥候の訓練だ、その後ろに俺とニール、殿をホワイト、後方から襲われてもホワイトなら受け止め、防御出来る」

「わかった」


ハルが返事をする。

「時間は気にしなくていい、素材が集まらずウノに戻る場合のタイミングは俺が出すから」

「わかった」

「よし、行くぞ」


依頼の素材は一角ホースの角と立髪だ、10体分必要なので1回の戦闘で集まる確率は低いだろう。

気性は荒いが頭が良く足が早い、劣勢となれば逃げ出す、人の足では追いつくのは難しい、銀狼の腕の見せ所だろう。


ハルを先頭に進む、歩みは遅いが上手く敵を避けながら奥に進む。

進行方向に魔物を見つける、ハイコボルトの群れだ、3匹のハイコボルトが7匹のコボルトを引き連れている。


後ろを見る、3人が頷く、ハルとニールが飛び出しホワイトが追う、ハイコボルト達が気付きコボルトが前、ハイコボルトが後方からこちらに走ってくる、ハルとニールが斬りかかる、先頭の2匹だ、だが他のコボルトも襲い掛かってくる、ニールが1匹を切り捨てる、2匹目の攻撃が迫る、がそこにロキの放った矢が頭を貫き阻止する、ニールは分かっていたのか既に3匹目に剣を突き出していた。

ハルが1匹を切り捨てる、その動きを2匹目の攻撃を避ける動きに繋げる、更に3匹目の動きを制限する位置取りだ、そこにハルとニールの間を割って盾を構えたホワイトが体当たりをかます、コボルト1匹を弾き飛ばしハイコボルトの攻撃を受け止める為敵中で足を止める、ハルが2匹目を始末し、3匹目はホワイトに意識が向いた所を刺し貫いた。

ニールが3匹目から剣を抜きハイコボルトに向かう、ホワイトがハイコボルト3匹を相手取り攻撃を凌いでいる、がスピードで勝るハイコボルトの1匹が盾を掻い潜りホワイトに爪の刺突が迫る、そこにニールが追いつきその爪を弾く、続く連撃で腕を切り飛ばす。

ハルはホワイトの方を向いているハイコボルトの背後に回り込もうとしている最中ニールがハイコボルトの腕を切り飛ばすのを見る、背後には回らず側面からハイコボルトに斬りかかる爪で受けられたが1匹の意識はこちらに向いた。

ニールは腕を切り飛ばしたハイコボルトに続け様に斬りかかるハイコボルトは防御も回避も間に合わず切り刻まれる。

ホワイトは1対1になった事で攻撃に転じる、攻撃パターンを読み、スピードで勝る相手の攻撃を地面方向に受け流す、そのまま覆い被さるように押さえつけ斧を振り下ろす。

ハルはハイコボルトの首を跳ね飛ばしている所だった。


ロキはホワイトが弾き飛ばしたコボルトを仕留めた矢を抜きながら歩み寄ってきていた。

「新手はいない、魔石とハイコボルトの素材だけ剥ぎ取ろう」


手早く済ませ、移動を再開する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る