第11話 世間知らず
それから1ヶ月、ハルは中層ウノで魔石を集めて中層ドスかトレスの魔物の素材を1、2種類をギルドに持ち込み、依頼は魔物の素材採取ばかりを受注し荒稼ぎしていた。
銀狼とは依頼を共にする事はなかったが、会えば世間話をする。
「なんか噂で聞いたけどよ、中層ウノを駆け回ってるのってハルだろ?」
ロキの言葉に多分自分だろうと思い頷くハル。
「やっぱりな、銅級の連中が小鬼の活動範囲が変わったって言ってたんだよ、それと鉄級のバブルが終わって次は俺達だってな」
「バブル?」
「なんでも鉄級の依頼達成数がめちゃくちゃ増えてたらしくてな、羽振りが良かったみたいだ、最近は銅級の奴らの素材の持ち込みが増えて、銅級の奴らの羽振りがいいらしい」
ハルは中層ウノでは素材の剥ぎ取りは行わず魔石だけを回収していた、必然的に魔物の死体は放置することになる。
一度森で見知らぬ冒険者から素材は剥ぎ取らないのか?と声をかけられた事がある、あまり関わりたくなかったハルは頷き立ち去ろうとしたが捨てるなら俺達にくれないか?と更に声をかけられた、いいよと一言だけ残しその場を後にした。
通常他の冒険者の獲物を横取りするのはとても恥ずべき行為だ、だが話し合い、許可があれば問題ない。
この冒険者から小鬼が狩り捨てた魔物から素材を剥ぎ取ってもいい許可を取ったという話が広まった。
この話を聞いた中層ウノを狩り場にしていた銅級の冒険者は歓喜し我先にと森へ入っていった…
そんな話をギルド内にある軽食所でしていると、ギルド長室からニールとホワイトが出てきてハル達に合流する。
ロキが聞く。
「どうだった?」
ニールが毒付く。
「どうもこうもねぇよ、金級試験の試験官がしばらく来れないから待ってくれだとよ!」
銀狼は金級試験に挑戦するようだが、試験日は未定らしい。
「ホワイトの方は?」
「原因不明みたいだ、調査は続けるらしいがな」
ハルが聞く。
「なんの話?」
「あぁ、ハルの銀級試験の時ちょっとイレギュラーがあってな、それについての調査結果を聞いてたんだよ」
「ふーん…」
試験の翌日グランドコブラの出現場所とドスで聞いた竜種かもしれない鳴き声を報告した。
鳴き声の正体と魔物の分布の変動この2つを他の街の金級冒険者にギルド長が依頼したみたいだが、今のところ問題は見つかってないようだ。
ハルが席を立つ。
「じゃあ俺は帰るね」
「おう、じゃあな」
「またな」
「また噂話仕入れとくよ」
ハルは苦笑いで席を離れる。
「あれ、やっぱりハルだったよ」
そのロキの声をギルドを出ながら聞き宿に帰る。
裏の井戸で汚れを落としているとジーナがやって来る。
「ちょっとハル、掃除に入った時に見ちまったけど、ベッドの下のお金はなんだいありゃ」
小声だ。
「持ち歩けない量なので置いてます」
「あんなとこに置いてちゃ危ないだろ!…盗みをするような奴はこの宿にはいないけど、あんな額…無用心すぎる」
「すみません、もう少し貯めてから買おうと思ったんですけど、明日買いに行きます、魔法の袋」
「なるほどね…そういう訳だったのかい、普通は買っては売ってと段階的に容量をでかくしていく物なんだけどね…まぁいいさ、それとそろそろ料金分は経つけど、どうするんだい?」
「まだお世話になります」
「わかった!じゃあ追加分は後で持ってきな」
「わかりました、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね!」
部屋に戻りベッドの下を覗く。
数千万の金が乱雑に置いてある。
「確かに無用心だな…」
苦笑いを浮かべるハルは着替え、食堂に向かう。
ジーナに追加で1年分の料金を払い席につく。
乱暴に置かれる夕飯。
「無用心じゃねぇか!」
ダイナの登場である。
「す、すみません」
「あんなとこに置いてちゃダメだ!この宿に盗人はいねぇが万が一がある、まぁ…万が一盗人が出ても俺が取っちめてやるがよ!」
「気をつけます」
「お、おう、それと…それとよ…出ていくのか?…この宿?」
「いえ、さっきジーナさんに追加の料金渡しました」
「そうか!…そ、そうかよ」
「お二人とも優しいですし、ご飯もおいしいですから」
「や、やや、優しい⁉︎俺が⁉︎も、もう一回言…いや、な、なんでもねぇ…明日はシチューだ!」
そう吐き捨て厨房に駆けていくダイナ。
その様子を見ていたジーナは床を転がりながら抱腹絶倒していた。
次の日背嚢パンパンに金を入れたハルがフォルトの街で1番でかい商店にいた。
「魔法の袋を買いたいんですけど…」
「容量は如何程のものをお求めですか?」
「300Kgくらいの…」
「かしこまりました、では下取り致しますのでお持ちの魔法の袋をお出し下さい」
「えっと…」
「下取りは無しで新たにご購入という事でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました、高額な商品ですので個室での精算になります、こちらへどうぞ」
促されるまま付いていく。
「こちらの部屋でお待ち下さい」
「わかりました」
応接間のようでデカいテーブルがあり、高級そうなソファがある。
場違いな感覚を覚えながら待っていると腰袋と見た目が変わらない袋をトレーに乗せて先程の女性店員が現れる。
「こちらが上限300Kgの魔法の袋になります、ご確認ください」
「えっと…どうやって…」
「魔力を流していただきましたら容量が感覚でわかるかと思います、物が入っている場合は何が入っているかも感覚でお分かりいただけます」
「へー…あ本当だ、分かる、便利ですね」
「…初期状態の袋に魔力を流せばその方の魔力が登録され、他人には開けない様になっております、任意で複数の方を登録できますのでパーティーでの運用も可能です、登録解除の方法は商会ギルドの秘匿技術ですので悪用される心配はございません」
「なるほど…」
(この容量を買いに来といて知らな過ぎじゃないかしら…)
女性店員は訝しみながらも表情には出さず対応する。
「ではお代の方を…」
「はい」
パンパンの背嚢をひっくり返し大きなテーブルに大小様々な金貨銀貨銅貨が飛び出し、テーブルから転げ落ちた1枚が壁に当たって止まった。
笑顔が凍りつく女性店員。
「多分足りてます」
「そ、そうですか」
(これは嫌がれせかしら…)
「申し訳ございませんが1度そちらの魔法の袋に全てのお金をお入れ下さい」
「…?」
「お入れ下さい」
「は、い…」
有無を言わせぬ圧力を感じ意味もわからず魔法の袋に貨幣を入れていく。
「では、金貨銀貨銅貨、大中小に分けて出していただけますか?」
「…どう「袋に魔力を流しながら念じれば可能です、頭の中で言葉を浮かべるだけでその通りに出てきますので」
言葉を遮られ圧力の増す女性店員に萎縮しながら言われた通りにやってみる。
テーブルの上に綺麗に分けられた貨幣が現れる。
ハルはこの不思議な光景を自分がしたという事に喜色の表情を出すが、店員を見て慌てて表情を真面目なものに戻す。
「で、できました」
「大変上手に出来ましたね、では計算致します」
褒められたことに安堵するハル。
暫し待つ。
「全て合わせまして、71,099,700Gありましたので魔法の袋300のお値段を引きました、6,099,700Gをお返し致します」
真新しい魔法の袋に貨幣を入れる。
「ありがとうございました」
双方立ち上がる。
「またのご来店お待ちしております」
恭しくお辞儀している女性店員にはこちらが見えていないと分かりつつも頭を下げて退室し、店を逃げるように後にした。
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