第9話 尋問

帰り道は時間がかかった。

ハルの武器が曲がったグラディウスしかない為、魔物に出会わぬ様慎重に移動したからだ。

ニールが剣を貸そうとしたがロキが止めている、手を貸したことになると言う理由で、ニールはグチグチ言っていたが無視して進んだ。

なんとか日が落ち切る前に中層を抜けた、途中コボルトを蹴り殺しているハルを見て何故か嫌な気分になった3人だったが試験も終わりが見え安堵の息を吐く。

「この辺りからなら急いでも問題ないだろう、ハルが蹴散らしてくれる」

ロキが皮肉混じりに言う。

「俺だって好き好んで蹴飛ばしてる訳じゃない…」

「ハハハッ、まぁその剣はもう廃棄だろ、修理するより新しいやつを買った方がいい」

鞘に入らないグラディウスを眺めながら。

「おっちゃんから貰ったやつ…もう壊してしまった」

「おっちゃん?剣術や体術を教えてくれた人か?」

「あぁ、子供の頃から世話になってる鍛治屋のおっちゃんだ」

「じゃあその店で高い武器と防具買ってやれ、師匠孝行だ」

「わかってるよ、けど魔法の袋もなぁ…」

「あー、確かに早く欲しいよな、ハルは1人だから尚更な」

「武器を新調してコツコツ貯めるよ」

「割りのいい依頼があったら誘ってやるよ、パーティーじゃなきゃ受けられないものもあるからな」

「いいのか?」

「いいに決まってんだろ!ニールは聞くまでもないか…なぁホワイト?」

「あぁ、ハルの強さなら俺達が行けるとこならどこにでもついて来れる、連携すらいらんかもしれん」

「確かに…まぁ皆ハルなら歓迎だから声かけさせてもらうよ」

「わかった、助かる」


コミュニケーションも捗り足取り軽く上層を進む、途中ハルがゴブリンを蹴りk…もういいでしょう。

フォルトの街についた頃には辺りは真っ暗で門も閉まっている、見張り台に声を掛けて門の脇の小さな扉から中に入れてもらった。

通常、門が閉じれば出入りできないのだが銀級以上の特権として夜間の出入りが可能だ。


ギルドに到着、試験も終わりだ。

「お、おかえりなさい!随分遅かったですね?何かありました?」

ミランダだ。

「なんでいるんだ?交代の時間過ぎてるだろ?」

ニールが問う。

「心配だからに決まってるじゃないですか!この試験の担当なんですから!」

「声がデケェよ…問題無いよ、何もな、『銀級』試験は問題なく終了した」

「そうですか!怪我も無いようですし…銀級?」

「そうだ、ハルは銀級試験を受けて無事合格して帰ってきた!」

「…」

「どうした?合格だぞ?拍手の一つくらいあってもいいんじゃねぇか?」

「…少々お待ちください」


ミランダがギルド長室に駆け込む。

ロキが呆れ顔でニールに言う。

「ギルドに入る前に任せとけって言ってたけど、ちと強引過ぎやしないか?」

「いいんだよ!どうせギルド長が出てきてからが本番だ」

「だけどよ心象ってもんが…」


ミランダがギルド長室の扉から出てきて。

「こちらでお話を伺います!」


建物全体に聞こえるほどの声で呼びかける、4人はしかめっ面でギルド長室に向かう。

「そこに座って」


ウォールが続けて話す。

「とりあえず素材と魔石を出してくれる?」

ニールが魔法の袋からハルが手に入れた中層の素材と魔石をテーブルにだす、ニールが言う。

「俺達の袋から出したが間違いなくハルが1人で仕留めたやつだぜ、捨てるには勿体ないものばかりだからなこっちに入れといた、これぐらいは問題ないはずだ」

「問題点はそこじゃないんだけど…その件はまぁいいよ、確かにグランドコブラとオーガにオーグレスの素材だ、魔石も間違い無いだろう…」

「じゃあ試験は合格だな!」

「そんなに簡単じゃないよ、ハル君?これは君が1人で倒したんだよね?」

ハルが答える。

「はい」

「フォルトの街から出て、帰って来るまで1人で戦ってたの?」

「はい」

「そうかぁ…わかった、疲れてるだろうしハル君は帰っていいよ、結果は明日伝えるから」

「えっ?」

ニールがハルに言う。

「大丈夫だ、任せとけ!飯でも一緒にって思ってたが、仕方ねぇ、今日はゆっくり休んで楽しみに待ってろ!」

「…わ、わかった」


ロキとホワイトも頷いている、それを見たハルは一礼して部屋を後にする。バタンッ。

「…さぁ経緯を説明してもらおうか?」


ウォールが真面目な顔で説明を求める。

「まず最初に言っておくことがある、ハルは強い、俺よりもな、理由は魔力操作だ、その練度はハンパじゃねぇ!タイマンじゃロキとホワイトでも一撃も入れられないぜ」

「待て、まさか魔闘術を使えるのか?」

「なんだそれ?」

「あぁ、すまん、金級以上が使う表現なんだが魔力操作を戦闘で使えるレベルまで達した魔纏を魔闘術と呼ぶんだ」

「へー初耳だ」

「この街じゃ長らく金級が出てないからね、それに使える者が少ないから知ってても使う機会がないよ、そういえば最近ニールも使えるようになったんだってね?」

「ちっとな、ほんのちびっと…ハルの魔闘術?見て燃えたからなこれから更に鍛えるぜ!」

「この街から金級が出る日も近そうだ、おっと脱線したね続きを聞こう」

「あぁ、俺はハルと森で最初に会った時にその…魔闘術を使ってるんじゃねぇかと思ったんだ、だからハルの試験官を探してるって聞いて割り込んだ」

「なるほどね、割り込んだのはそういうことだったんだね」

「それで今日朝直接聞いた、そしたら朝から晩まで魔闘術を使ってるって言いやがった!やべぇだろ!銀級の俺ですら戦闘じゃ10分かそこらしかつかえねぇのに!」

「お、落ち着きなって」

「おう、そこで銅級試験の意味無いなって思ったんだ、だから銀級試験にしちまおうって」

「うーん、その発想が…まぁいっか、試験の内容は?」

「問題ねぇよ、俺達の手を借りずドスとトレスの魔物を1匹ずつ狩って帰ってきた、ほぼ無傷でな」

「無傷ね…戦いの様子を教えてくれるかい?」

「あぁ、端的に言うと時間軸が違う、ハルは見て判断して避けたり攻撃したりしてるその上で無傷だ、動体視力や思考、判断のスピードが人間じゃねぇ」

「魔闘術特有の動きだね…」

「それにオーガを素手で倒した…素手だぞ!ヤバ過ぎだろ!」

「落ち着きなって、それは…ヤバイね!」

「だろ!最後オーガ1匹になった時に武器が無くなっちまってよ!流石に助けに入るかって思ってたらボコボコにしだしたんだよ!目ん玉飛び出るかと思ったぜ‼︎」

「ハハハッ、見てみたかったな、そうか…ロキとホワイトも見たんだよね?」


2人が頷く。

「ニールの言ってることも間違ってないんだね?」

ロキが答える。

「間違い無いよ」

ホワイトも答える。

「間違いない、ギルドの細かなルールはわからんが、強さは銀級以上だろう、金級だと言われても納得できる」

「わかった!銀級試験として処理して、ハル君は合格、銀級だ」


ニールが万歳しながら。

「流石ウォールさん!わかってんな!」

「ハハハッ、君達が嘘をつくメリットがないからね、それだけの強さがあれば他の冒険者は誰も文句は言えないだろうし」

「ハルに喧嘩売ったら蹴り殺されちまうよ!」

「え?物騒だな」

「おっと、なんでもねぇ…もういいか?俺達もクタクタだからよ」

「あぁ、この素材と魔石の料金は明日ハル君に渡しておくから、あっそれと、君達に払う試験官の依頼料は銅級試験のままだからね」

「まじかよ⁉︎こんな時間まで仕事して…」

「こういうことが嫌なら、まずギルドに相談することだね」

「わーたよ、じゃあな」


ロキとホワイトは軽く頭を下げて3人で退室する。

「この街から英雄がでるかもね…」

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