第7話 不穏なドス
中層ウノを上層と変わらぬペースで進む、だが戦闘はそうはいかない。
ハルは移動中弓を持っている、会敵した場合即座に矢を放つ為だ、走っている為音が出る、敵に気付いたら敵もこちらに気付いていることがほとんどだ、グラディウスの間合いは近距離である、その為近づく迄に攻撃される事が多い、その一手を封じる為に矢を放つ、当たればダメージを負わせられる、当たらなくとも回避行動をとってる間に距離を潰せる、早期決着の戦術としてはハルの装備ではこれしかない。
2体のオークを視界に捉えた、木々の隙間から矢を放つ、1体の横腹に刺さる、大して怯まずこちらに向かってくる、オークには遠距離攻撃がない、近づかず再度矢を放つ、腹に矢が刺さっている1体の頭目掛けて飛んでいく、矢の刺さる痛みを知っている為か大きく避ける、無傷の1体が飛び出している、弓から剣に持ち替え迎撃の態勢に、振り下ろされた棍棒を盾で受け流しながらオーク同士の動線が被るように回り込む、棍棒を振り下ろしたオークが体勢を整える前に首の動脈を切り裂く、少し返り血を浴びるが仕方ない、動脈を切られたオークはすぐには倒れないその為動線が被っている2体目のオークが攻撃出来ないでいる、タイミングを見計らい血を吹き出しながら倒れるオークの脇から飛び出して2体目のオークの横腹を切る、致命傷には至らない、激昂し振り向きざまに棍棒を横薙ぎに振るうがスウェーで躱す、手傷を負っていた為か攻撃後体勢が流れている、その隙を逃さず首を両断する。
危なげない戦いを見ながら3人はそれぞれ違う事を考えていた。
ロキは驚きに満ちている。
(これが魔力操作の効果か、動きに無駄が一切ない、躱したり受け流したステップが次の攻撃の1歩目にっている、人間の動きじゃないな…)
ホワイトは考察している。
(基本的な剣術だが、かなり守りが重視されてるな、師事している者の意向か?でもそのせいか火力不足だな、ドス、トレスでは敵を選ばないと倒しきれないだろう)
ニールは尊奉の眼差しでみている。
(俺の魔纏とは全然違うな!少し出来るようになったから感覚はわかるけど、あれは異常だぜ!あのレベルで戦ってみてぇなー)
会敵自体は減らしている、一直線に進んではいない、気配の強い者はなるべく避けて、避けると遠回りになるものは戦う、もちろん銀狼に手を貸してもらってはいないが道程や地形などに関してはアドバイスとして受け取っている。
3時間ほど移動と戦闘を繰り返しドスと呼ばれる区画に着こうとしていた。
その時強い気配を感じたがもうすぐ目的地に着くとの思いから戦闘に移行する。
大蛇グランドコブラ全長20m程、中層ドス区画の魔物である。
ホワイトが思案する。
(こいつか…硬い上に毒持ち、ハルには荷が重いかもしれん、今までの戦闘を見る限り被弾はしないだろうが火力が足りん、長期戦になるか…でも何故こいつがここにいる?もっと奥の湿地帯にいるはずだ)
魔物の意識が向かない程度の距離を保っていたが思わぬ強敵が出た為すぐに助けに入れる距離まで移動しようとした時、ニールに止められる。
「問題ないと思うぞ」
その言葉に信憑性は感じないが一応リーダーである、ホワイトは足を止めて観戦する。
ハルは短弓じゃ通用しないと思ったのか最初から剣を持っている、グランドコブラと睨み合う。
ゆっくりと蛇行しながら近づいてくるが飛びかかってこない、痺れを切らしたハルが地面スレスレを飛ぶように突っ込む、待ってましたと言わんばかりに大きく口を開き覆いかぶさるように頭を振るう、ギリギリの所で地面を蹴り方向転換、すれ違いざまに斬りつける、傷は付くが血は出ない、明らかに火力が足りない、グランドコブラは地を抉りながら口を閉じその鎌首を元の位置に戻す。
斬るがダメなら突くだ、しかし突いた場合刺さる、刺さったものは抜かなければならない、これは今のハルには致命的な隙になる、防具は貧弱で得物も剣一本、手放す訳にはいかない、刺した場合抜く選択肢以外取れない、ならば狙いは…
ハルがステップを踏む右へ左へ、軽やかなステップだ。
グランドコブラが先程の攻撃では捕まえられないと巻きついて仕留めてやろうと動くがハルがそうはさせない、上手く距離を保ちながら頭と胴体の位置を把握し包囲されないようにステップを踏む。
次はグランドコブラが痺れを切らし、頭を胴体と同じ高さにしてハルのステップの軌道を通るように口を開け突っ込んできた。
バックステップで逃げる、躱さない、徐々に距離が詰まる、5歩目のバックステップで上に飛ぶ、流石に反応しきれなかった、ハルの真後ろにあった木に激突怯む事はなかったが一瞬ハルを見失った。
ハルは空中で体勢を整える、腕と剣に全体の9割の魔力を集める、グランドコブラの頭に着地した瞬間突き刺す、力を込めすぎたのか持ち手まで突き刺さってしまった。
動かなくなったグランドコブラを指差しながら。
「こいつの素材はどの部分が高い?魔石だけ取ってすぐにドスに行った方がいいかな?」
そう言葉を放つハルにニールが笑顔で近づいていく。
ロキとホワイトはその場で立ち尽くしている。
ロキが口火を切る。
「見たか?」
「あぁ、見た」
「片手剣が持ち手まで突き刺さってる」
「ニールでも1人じゃ倒せないだろうな」
「…」
「…」
「これは銀級どころじゃないんじゃないか?」
「そうだな」
「…」
「…」
「心配いらなかったな」
「そうだな」
「…」
「…」
「行こうか」
「そうだな」
2人もハルのもとえ駆け寄る。
粗方剥ぎ取りを済ませて魔石を取る。
グランドコブラが中層ドスの魔物だと聞き少し驚いたが、手間が省けた喜びの方がでかかった。
背嚢に剥ぎ取った皮と牙と魔石を詰めようとして無理だと気づく、皮が入らない。
フリーズしてると、ニールが。
「魔法の袋持ってないんだな?俺達の袋に入れてやるよ」
「いいの?手伝ったことにならない?」
「こんぐらい問題ねぇよ、捨てるのは流石にもったいねぇしな」
「わかった…その魔法の袋いくらだった?」
「これか?1億したかしなかったくらいだったかな…」
「…億」
「500kg迄入るからな、それだけの価値はある」
「遠いな…」
「銀級になりゃすぐだぜ!」
「そうなんだ」
「任せとけ!」
「何を任せればいいのかわかんないけど…わかった」
ハルがニールに懐き始めていると感じたが2人は表情に出さず。
「次行くぞ」
「俺らもハルの実力ちゃんとギルドに伝えるから、銀級になれるかもってやつ期待しててくれ」
そういうことかとニールの言葉を思い出しながら立ち上がり移動する。
程なくドスとトレスの境界線である川に着く。
少しの休憩、ハルは返り血などを落とす為に川に近づく。
銀狼の3人はギルドにどう説明するか話し合っている。
5分と経たずにハルが戻ったときに、かなり遠いがでとても獰猛な鳴き声が聞こえた。
「今の鳴き声は…」
「竜種か?」
「嘘だろ…何で中層に…」
「かなり遠い、心配はいらんだろうが…急ごう」
ロキとホワイトの会話で休憩を終え出発する。
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