第6話 飛び級?

森が見えてきた、ニールが立ち止まる、つられて皆が足を止める。

「なぁ、これ銅級の試験だよな?意味あるか?」

「どういう意味だ?」

ホワイトが問う。

「銀級試験に変えちまわねぇか?」

「俺らにそんな権限ある訳ないだろ、ふざけた事言ってないで行くぞ」


ホワイトが諫めて歩きだす、皆が歩きだすが後ろにいるニールは納得のいっていない表情だ。


森に入る直前、ハルが3人に声をかける。

「いつもと同じでいいのか?」

ロキが。

「いつもがどんなかは分からないが、試験官は基本見てるだけだ、余程危なくならない限り手は出さない、だからいつもどおりでいいけど無茶はするなよ」


ハルが首肯で返し魔纏を発動、走り出す。

慌ててついていく3人。

「索敵はしないのか⁉︎」


その問いに返事をする事なく走る。

すぐに会敵、ジャイアントトードだ。

走っていた為にすでに音で気付かれいた、迎撃にでるジャイアントトード、舌がハル目掛けて飛んでくる、難なく躱して舌が戻るスピードより速く接近、そのままの勢いでグラディウスを振り首を跳ねる。

素早く魔石を回収して中層に向け走り出す。

その後も会敵、接敵を繰り返し、出会った魔物は全て屠る。

2時間と経たずに中層に辿り着こうとしていた。

そろそろ移動スピードを抑えて索敵を十分にしながら進もうかとハルが思っていたタイミングで。

「止まってくれ!」


ロキの声に皆の足が止まる。

「中層の魔物が現れる辺りだ、移動スピードを落として進もう、万が一がある」

その忠告にハルが頷こうとするが、ニールが横槍を入れてくる。

「ゆっくり進むのか?、万が一は無いんじゃねぇか?」

「油断すればすぐに死ぬ、わかってるだろ?」

「わかってるけどよ、ハルの戦闘を見てたろ?」

「…あぁ、見てた」

「あれはもう戦闘スピードが段違いだ、間違いが起きる事はねぇ」

「…」

「時間軸が違う、体を動かすスピードは魔力量が多くねぇからかそこまでじゃない、けど体捌きや判断力が異常だ、相手の動く先が見えてる動きだ、だけどどんなに経験があって敵を知っててもそれはあり得ねぇ、ハルは見てから判断してる」


ニールが言っている事は魔力操作を行いながら戦闘ができる者、特有の動きだ。

通常、人はこう動くと思ったイメージに沿って体を動かす、そのイメージ通りに動かす為に反復練習や基礎トレーニングをする。

剣術や槍術などの戦闘技術では型があり繰り返し練習することにより身につけ、戦闘に反映させる。

しかし、実際の戦闘では敵がどう動くのかわからない、型通りに動いたとしても確実にヒットする訳ではない。

敵も動く、攻撃すれば回避もする、思い通りにはいかない。

攻撃動作に入って止められず反撃をくらう、回避行動を大きくとりすぎ隙を見逃す、予測していなかった動きに硬直する、戦闘中に起こり得る事だが、ハルはそういったミスをしなかった。

ニールが続ける。

「ハル、中層で怪我したことあるか?」

「ない」

「ほらな、フォレストウルフ9匹相手に突っ込んでいって一撃ももらわなかったんだぜ、万が一はねぇよ」


ロキとホワイトが顔を見合わせる。

「だとしてもこれは試験だ、万が一が起きないように俺たちがいる」

「そうだ、銅級試験だ、中層ウノで1匹狩って終いだ、リスクを犯す意味は無い」


中層は広い為、ウノ、ドス、トレスの3区画に分けられる。

ウノは中層の入り口、ドスとトレスは中層奥を左右二分するように区分けされている。

ニールが口角を上げ。

「それだ、銅級試験では『中層』の魔物を狩ってこいって言われてる、中層ウノでとは言われてねぇ」

「まさか…ドスに行くつもりか?」

ホワイトが呆れ顔になる。

「いや、トレスにも行く」

「お前なにを言って…」

「銀級試験はドスとトレス両方の魔物を狩ってくる事だ、今までのペースで移動すりゃ2、3匹狩るくらいなら日暮れには上層に戻れる、ドスとトレスに行って魔物を狩って戻れば銅級試験が銀級試験に早変わりだ!」


突拍子もない事を言い出したリーダーに言葉を失い頭を抱える2人。

「ハルはもちろん行くだろ?」


ニールが問う。

「そんなことしていいのか?」

「わからん!ギルドへの貢献度とかもあるみたいだが強い奴が上に行くのは当然のことだ、証拠さえ持っていきゃどうとでもなる!」

「どうとでもって…」

「銀級になりゃ俺達と一緒に依頼を受けられる!俺達クラスの狩場に鉄級や銅級を誘うのは流石にまずい…けど銀級なら問題ない!寧ろ銀狼に入れ!」

「いや、入らない」

「なんでだよ⁉︎⁉︎」

「精霊の住まう山を踏破する迄は1人でやるつもりなんだ」

「なるほどな…あそこは1人で登らなきゃいけねぇもんな…そういや、今は銀級から精霊の住まう山に挑戦できるけど、近々変わるらしい、銀級の奴らが死に過ぎたらしくてよ、金級になって1年だったか?それくらいしねぇと挑戦できなくなるって聞いたな…」

「行く」

「ん?」

「ドスとトレス?に行く」

「よっしゃ!決まりだぜ!」


それを聞いていたロキが慌てる。

「ハル!わかってんのか⁉︎銀級になれる保証は無いし、ドスとトレスには今日初めて行くんだろ?試験として行くなら俺達は手を出せない、1人で戦うなんて無茶だ…」

「いや、行く」

「おい!話聞いてたのか⁉︎」


珍しくロキが声を荒げるがホワイトが割って入る。

「ロキ落ち着け、ハル、確かにドスもトレスも『中層』だ銅級試験の内容に反してはいない、だがとても危険だ、1人なら尚更な、それでも行くんだな?」

「行く」

「じゃあ行こう、ロキこれはハルが決めた事だ試験官として危なくなったら助けに入る、そうなったらそこで不合格にして帰ればいいだろう、最悪死んでも自己責任だ、冒険者なんだからな」

「…そう、だな」


ホワイトの言葉に反論出来ず、ロキは渋々納得する。

そこでニールが。

「決まったな、そんじゃ飯にしようぜ、朝から何も食ってないからペコペコだぜー」


中層に入る前に休憩を取る、悪くないタイミングだ、だが昼食には早過ぎるタイミングである。

ニールだけが喋っている、ハルが頷くか一言二言返す程度で後はニールの元気な声しか聞こえない、ロキとホワイトは動ける程度に腹を満たし装備の確認をしている。

ホワイトが声をかける。

「そろそろ行くぞ、喋ってねぇで早く食え!」

「ままっへふひょ!もひひょっほみゃっめむめ」

「…お前のどこに敬意を払うんだよ」


銀級試験?の始まりだ。

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