第5話 試験
それから4日間、午前を上層で午後を中層で狩りをしていた。
魔力量は増えているが、上層の魔物では増え辛くなってきたので中層をメインにしようかと思っている。
ギルドには1日、1、2種類の中層の素材を持ち込んでいる、不穏な噂が出る事は無かった為、あらぬ疑い(主にミランダからの)が晴れた頃、ハルに関する噂が立ち始めた、朝早くから上層の森を駆け回っている小鬼がいると。
森では考えられないスピードで移動しながら出会った魔物は皆殺し、遠目で戦闘を見たことのある冒険者は「魔物が次にどう動くか見えてるみたいだった」と、上層を主として活動する冒険者からすればその強さで何故こんな所で狩りを?と疑問に抱くが、魔物が激減して採取系の依頼がかなり捗っている為追求する者はいなかった。
今日も魔石と中層の素材をギルドに持ち込む。
「買い取りお願いします」
ミランダが笑顔で対応する。
「かしこまりました、少々お待ちください」
その場で待つ。
大量の魔石と巨大タランチュラの毒腺を取り出し鑑定している。
「ハルさん、明日も森に行かれますか?」
「いえ、休みます」
「銅級試験の受験資格が満たされましたので受けられますが休み明けに受けられますか?」
「…はい、お願いします」
「かしこまりました、では明後日の朝にギルドにいらしてください、特別に準備する物などはありませんしいつもの装いで問題ありません、試験内容は当日に説明させていただきますので」
「わかりました」
「…ところで…ハルさんはお休みの日は何をされているんですか?」
「…休みの日は休んでいます」
「ん?」
「休んでいます」
「…?そ、そうですか、ではこちらが買い取り金額の851,600Gになります」
「どうも」
金を受け取りカウンターを離れる。
「お疲れ様でした!…休みの日は休んでる…うーん…どうゆうこと??」
一歩踏み込んでみたミランダだったが、不発に終わった。
列を成す冒険者を待たせて暫し考え込むミランダであった。
休みの日は休む、読んで字の如くである。
ハルの休日は宿から出ることがない、ほぼ寝ている、昼前に起き頼んでいた弁当を受け取り部屋で食う、そして魔力操作の訓練を行いまた寝る、夕飯時に起き、飯を食い、もう一度魔力操作の訓練を行って朝まで寝る。
日課の訓練以外は飯を食っているか寝るしかしない、正しく休んでいる。
ハルの頭の中にはある魔族を駆逐することしかない、全てを奪われたあの日から駆逐し滅ぼすと誓いを立てている。
大きな恐怖と大きな絶望に苛まれ自ら命を絶っていた可能性もあったが、それを上回る憎悪と怒りが生きる活力になり今がある。
試験当日の朝のギルド、いつものように夜明けと共に起床しギルドへ向かったが担当する試験官がまだ来ていないということで先に説明を受けている。
「おはようございます!今回の試験では中層での魔物討伐を行なってもらいます…はい、その表情から言いたい事は全て伝わりましたので続きの説明と補足をします、ハルさんは中層の素材を何度も持ち込んでいますので今回の試験は形式的なものです、試験には本来の目的と副次的な目的があります、ハルさんの場合は副次的なものがメインになるかと思います、冒険者は実力主義ですが冒険者同士でもそれは同じと思っている方が多いです、そのせいで諍いが多発します、もちろん日々戦いに身を置く仕事なので血気盛んなのはわかります、ですがギルドとしては協調性を重視したいのです、試験では上の級のパーティーに監督役兼指南役についてもらい顔見知りになってもらい、協調性を持ってもらうのが副次的な目的です」
このやり方は概ね好評だ、諍いが起きた際に試験を共にした誼で仲裁に入る者、試験後に師弟関係になる者までいる、もちろん反りが合わず険悪になる者もいるがごく一部だ。
「今回の試験官は銅級のパーティーを予定していたのですが、割り込ん…んんっ、希望する方がいまして銀級の『銀狼』というパーティーが担当します、皆さん揃い次第試験開始です」
銀級の銀狼…プププという呟きを聞きながらどこかで聞いた事あるような…と考えていると。
「悪い、待たせたな」
その声に振り向くと3人の男。
「やっぱりあの時の奴だったか、ハルだよな?」
「確か上層の森で会った…」
「ロキだ、こっちがホワイトに担がれてるのがニールだ、一応リーダーだ、思い出したか?」
「あぁ、嫌な思い出だけど」
「ひでぇ!確かにいきなり声をかけたが…」
「違う、あの時はいろいろ自分のミスが重なってたんだ、だから嫌な思い出」
「そういう事か、まぁ、今日は試験官の銀狼だ、よろしくな!」
「よろしく」
ロキが喋りホワイトは寝ているニールを肩に担いでいる。
「では、揃いましたので試験開始です、いってらっしゃい!」
東門からフロンティーラ森林に向かう。
「今迄1人でやってきたのか?」
「あぁ、パーティーは組んだ事ない」
「ずっと1人でやっていくつもりなのか?」
「そういう訳じゃないけど…」
「まぁ、背中を預けられる仲間はそう簡単には見つかんねぇよな」
「やっと起きたか」
ホワイトの一言でそちらに意識が向く。
「どこだ?森に向かってんのか?あれ?試験官は?今何時だ?」
「試験は始まってる、よ!」
「いって、投げ飛ばすなよ…寝起きだぞ」
「投げ飛ばされたくなかったら時間通りに起きろ、装備は袋の中ださっさと着替えろ」
「わかったよ!ガミガミうるせぇな…」
そのやり取りを見ていたハルがロキに聞く。
「いつもこんな感じ?」
「あぁ、うちのリーダーは朝が弱い、こういうのは日常茶飯事だよ」
苦笑いのロキ。
ニールの準備が整い移動を再開する。
「ハル?だったよな、森の上層で会ってから気になってたんだよ、銀狼のリーダー、ニールだ」
「紹介はアンタが寝ている間にしてもらった」
「んなっ…せ、先輩には敬意を払うもんだぞ!」
ホワイトが横から。
「お前がハルに見せた行動のどこに敬意を払うんだよ」
「ぐっ…寝坊したのは確かだが…俺は試験官だ!」
「無理やり割り込んだくせに」
「うるせぇ!くそ!もう俺は喋らん!」
「それが試験官の態度かよ」
「こんのくそ坊主!」
「坊主じゃねぇ剃ってんだ、それにもう喋ってんじゃねぇか」
ロキが仲裁する。
「やめろやめろ、俺らだけじゃなくハルがいるんだ、いつものノリは抑えよう「俺はホントに怒って…」わかったから、ニールはハルに聞きたい事があったんだろ?今のうちに聞いとかなくていいのか?森に入ると聞けなくなるぞ?」
「そうだった!」
ロキとホワイトがため息をつく。
「なぁハル、魔纏見せてくれ」
「…いいけど」
魔力を纏う。
「まだ見えないのか…魔力操作は出来るか?」
「出来る」
「戦闘に使えるレベルなんだろ?」
「あぁ」
ロキとホワイトが驚く。
「ノービスであの強さなら使えなきゃおかしいと思ったんだよ、どれくらいもつ?」
「1日」
「ん?いや、戦闘中どれくらい使い続けられる?」
「1日中、朝森に入って夕方森を出るまで使ってる、いつも」
「それはやべぇな!」
ニールは喜色の表情、ロキとホワイトは絶句している。
「俺も最近使えるようになってきたんだけど10分が限界だ、休めばまた使えるけど少し短くなっちまう、ハルは15 だろ?すげぇな!すぐにでも銀級になれるぜ!」
「そうなの?」
「あぁ!魔纏の魔力操作しながらそんだけ戦闘できる奴は銀級にはいねぇ、金級にも多くないはずだ、魔力量が増えれば白銀や白金だって夢じゃねぇ!」
何故かニールのテンションが高くなっているが、その訳はこの世界の英雄譚の中にある、魔族の侵攻を単騎で退けた者、龍を討伐した者、魔族の領域に行って帰ってきた者、数多ある物語の英雄は皆、魔力を纏う様子が輝いて見えるとある、魔纏を発動しただけでは光を放つ事はない、密度を上げ、高速で循環させる事により光って見える、その循環速度と魔力量が増すほど光を強く放つ、輝くと表現される様は魔纏の極致である。
常に使い続けられる程の効率ならば練度も相応だ、もしハルの魔力量が見える程増えれば光ってみえるかもしれない、そう想像するだけでニールはテンションMAXだ。
ロキはハルを見ながら思案する。
(あの年でそこまで出来るか?あの地味で成果の見え難い訓練を子供が続けられる?15歳って事は10歳に満たない頃から訓練し続けている…あり得ない、よっぽどの理由が、生きる目的そのものがそこにない限り…)
ホワイトが口を開く。
「そろそろお喋りは終わりだ」
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