[09-13] アマルガルム族の戦い方
現状を把握して、ひと呼吸。
戦場を広く見渡してみると、敵は〈武以貴人会〉だけではなさそうだ。他クラン所属のイモータルもこの戦いに参加している。
ハルナさんがわたしたちに懸賞金をかけたからか。
聞き洩れてくる言葉から察するに、わたしが持つ魔王ビュレイストの力に対する好奇心、ラカを倒すことで得られる名声も目的のようだ。
そういう意味ではハルナさんが我先にラカと決闘を始めたことに対して、不満を抱くイモータルもいるようだった。早く負けろとぼやく声まで耳に届いた。
わたしは今から、この人たちと戦うんだ。
「……よし」
わたしは大股で観衆から抜け出し、くるっと反転してフードを脱ぎ取った。
ぴょこんと飛び出した狼身と赤毛で、勉強熱心な人は気づいてくれたらしい。
「あ、あの子……!」
にや、と笑みを作ってみた。思いつく限りの悪者顔で。緊張していてぎこちないかもしれないけど。
どっと群衆が湧いて、一斉に銃を抜いた。
うわ、と思ったけれど、彼らはいきなりぶっ放さないでこちらを様子見する。情報がない、レベルが低いとは言え、同行者がラカとアルナイルだ。警戒してくれているのである。
空気が変わったことにハルナさんが気づいたようだ。ラカとの戦いを中断する。
それを見計らって、ラカとアルナイルがわたしの元に集合した。
「やっと来たわね。見てのとおり、ちゃんとネネの見せどころも残してあるわよ」
アルナイルは眼光だけで群衆を牽制しつつ、わたしに小声で尋ねた。
「試練をやり遂げたようですね」
「わかる?」
「ええ。はっきりと、あなたのそばにアマルガルムがいることを感じます。ビュレイストの力が作用したようですが、そちらは問題なかったのですか?」
「うん。霊界の奥深くまで潜っちゃったというか……そのおかげでお互いのことを深く知れたんだけどね」
「それはよかった。では、早速お披露目と参りましょう。魔族が恐れし孤高なる霊狼の力を、ね」
わたしはこくりと頷き、胸にそっと手を当てた。
あの深層で、わたしたちは時間いっぱいまで戦った。わたしたちの過去に残された『もの』を全て薙ぎ倒しながら、全力を振り絞ったのだ。
今ならわかる。
この世界、わたしが立つ大地、万物、表層は、深層に降り積もったあらゆるデータやログの塵から再構成されたものだと。
念じれば、わたしの肉体が呼応するのがわかる。
本当、頭がどうにかなったみたい。心臓から送り出された血液が手や足の指先を巡り、また帰ってくるのが感じられるのだ。
この体に、アマルガルムは最初からいた。わたしのアマルガルムだ。
「霊狼よ! 我が血より目覚めて贄を求めよ!」
わたしが考えた決め台詞ではない。スキルを発動させるためのトリガーワードとして、自然と『ネネ』が言葉を発したのである。
そして叫んだ瞬間、わたしの体を流れる血が沸騰するのを感じた。
《タレントスキル〈
このスキルの具体的な効果は基本ステータスの割合上昇と、この状態でのみ使用できる特殊スキルの解放だ。
だから、〈武以貴人会〉のひとりがわたしを指差して、
「来るぞ! 備えろ!」
と号令をかっける身振り手振りも緩慢に見える。
わたしは〈クェルドス・スペシャル〉をサブホルスターから引き抜いた。まずは景気づけに一発ぶちかます!
《レリックスキル〈
どん! 轟音さえも置いていくほど加速した44口径リボルバー弾が、イモータル集団の先頭に直撃。
遅れて、砂煙が左右に分かれて吹き飛ぶ。死を免れたイモータルたちは愕然と仲間たちの轢殺を見つめ、次にわたしへと視線を移す。
そのときすでに、わたしは集団へと肉薄していた。アルナイル流『最初に大技を仕掛けてびっくりさせたところを突撃』だ。
〈クェルドス・スペシャル〉から〈L&T75〉に持ち替えていたわたしは、至近距離からイモータルに38口径リボルバー弾を放った。
ぱっと見で敵が死んだかはわからないけれど、
《タレントスキル〈アマルガルムの狂奔〉が発動しました》
近距離攻撃で敵を倒したときに発動するスキルの発動ログで、それを確認することができる。
続けて振り向きざまに回し蹴りをお見舞い――しようとしたのだけど、相手も手練れのイモータルだ。ぎりぎりのところで身を引いた。
でも、今のわたしにそれはダメ。
《タレントスキル〈
憑依中にのみ発動するこのスキルは、格闘や近接武器スキルをトリガーにして、かまいたちのような追加攻撃を行う。
さらにこれは
相手もMNDが高ければ、わたしに重なって薙ぎ払い攻撃を行うアマルガルムの姿を見ることができただろう。
イモータルの首が胴体から離れ、血飛沫が砂塵を赤く染める。
「なんじゃそりゃあ!?」「〈遺産〉の力か!?」
周りのプレイヤーが叫んでいるけれど、残念でした。正真正銘、アマルガルム族の力です。
……待てよ、この蹴りに〈
必要ならノリで試せばいいか。
今は息をつかせずに攻め立てる!
というか、みんなわたしから距離を取ったので、ばんばん弾を撃ち込んでくる。
わたしはその弾道を見極めて回避。できるだけ足を止めることないよう、左手で握り締めたナイフを使ってアルナイル流『避けれないなら弾けばいい』を実践。
……うん、最初は滅茶苦茶だと思ったけれど、意外とできるようになるものなんだなあ。
ふと、こちらに向かって直進してきた弾丸が妙に気になった。
38口径リボルバー弾。わたしが使っているのと同じ。
発射元は〈武以貴人会〉の女性ガンスリンガーだ。パニック気味にリボルバーを連射しているけれど、当然すぐに弾切れ。リロードしようとポーチに手を突っ込むのがわたしの目に映った。
ぴこーん。天啓が閃く。
わたしは行き交う弾丸の中を駆け抜けながら、〈L&T75〉の銃口を女性に向けた。シリンダーを見つめると残弾数が表示される。残り一発。
狙うは胸ではなく手。極限の集中状態で放った射撃は、ばっちり手首に命中。
「あっ!?」
女性が仰け反ると、宙に弾薬がばら撒かれた。
わたし、女性を飛び蹴りで押し倒し、開放した〈L&T75〉のシリンダーを空中の弾薬に叩きつける。
《スキル〈
やった! しかもモーション・アシストに任せたら、六発中五発成功!
心の中でガッツポーズ。表面上は
「ごめんね」
とどめの一発を撃ち込む。
この調子で38口径弾を使っているガンスリンガーを狙っていけば、わたしの弾薬を消耗することもなさそうだ。
「な、なんだよこいつ……これがアマルガルム族の戦い方なのか……?」
大勢が恐れおののくのはとても気分がいい。
バトルスタイルがここに来て結実しているのもそうだ。
今まで色んな人から教わってきたこと、色々な敵との戦いで学んできたことが、わたしの中でちゃんと活きている。それが嬉しい。
自信を持っちゃってもいいだろうか。
わたしは一人前のガンスリンガーになったんだ、って。
無表情だった顔が笑みに変わる――そんなわたしの頭の中で、霊獣アマルガルムが警告してくれた。
《貴様はまだ半人前だぞ、小娘。驕らずさっさと手足を動かせ。敵を翻弄し続けるのだ》
おじいちゃんは小言が多いなあ。
《誰が『じじい』だ。貴様の親族になった覚えはない》
ロールプレイングは大事なんだよ、おじいちゃん。
ひうん、と飛んできたライフル弾を躱し、軽く〈
この惨状を見て我慢できなくなったか、
「みな、お止めなさい!」
たった一度のよく通る声が、混乱をぴたりと収めた。
声の主は、ずっとわたしの戦いを観察していたハルナ・ジュフインさん。こういうところ、さすが大所帯のリーダーである。
ハルナさんはラカの視線を「ふん」とはぐらかし、わたしの正面へと立つ。
「わたくしがお相手しますわ、ネネさん」
別に構わないけど、ラカと決闘していたんじゃ――〈L&T75〉のリロードを済ませながらラカを窺うと、
『ゴー! やっちゃいなよ、ネネ! ぶっ倒せ!』
目と口パクで語っていた。
そういうことなら気兼ねなく。
「いいよ、やろう」
ふたりの立ち位置はリボルバー射程圏ぎりぎり。
〈ニュー・グラストン〉ではお預けなままの勝敗を、ここで決める!
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