[01-10] 木こり小屋の激闘
「右よし、左よし、右よし……」
わたしは茂みから這い出て、小屋の裏手にぴったりと背中をつける。もうすぐラカが騒ぎを起こすはず。その時を心して待つ――
半開きの窓から、さっきまで断片的だった声がはっきりと聞こえた。
「もう一度だけ聞くぞ。お前の親父はお宝をどこかに隠した。その親父がぽっくり逝っちまった今、在り処を知ってるのはお前ら、マクミハル家の人間だけだ! そうだよなァ!?」
「わたくしは何も知りませんわ! 父上からそのような話を聞いたこともない! 先ほどもそう申したでしょう!」
「だったらどうして、伯爵令嬢がわざわざ魔王領くんだりまで来たんだよッ! 護衛もほとんど連れずによォ!」
……はくしゃくれいじょう?
わたしは思わず聞き耳を立ててしまう。
お嬢様は気丈にも「はッ」と笑った。
「わたくしがその財宝とやらを掘り起こしに訪れたと? それほど価値のある物ならば、父上がとっくの昔に持ち帰っているでしょうに。何をバカげたことを……」
「ああ、そうだ。バカだぜ? 十も数えられないんだ。俺がナイフを振り回した後もその綺麗なお手々に指が十本くっついているか、お前の賢いおつむで数えるんだなァ!」
「おやめなさい! やめて! 近づかないで、このけだもの!」
……もしかして、かなり危ない状況なのだろうか。
ラカに判断を仰ぎたいけれど、頼れる相棒はそばにいない。
ああ、ダメだ。黙って見てなんかいられない。飛び込むしかない――
悩んでいるうちに小屋の表側で銃声が鳴り、ギャングの悲鳴が上がった。ラカが狙撃を始めたのである。
「コッパがやられた!」
「伯爵の兵が来たのか!? 早すぎるぞ!」
ドアが乱暴に開け放たれ、人がぞろぞろと飛び出していく。
小屋がもぬけの殻に――ううん、相変わらずお嬢様を詰問する声がしている。こっそり救出は難しそうだ。
それでも窮地は脱したと見て、わたしは作戦どおりに動くことにした。物陰から表の様子を窺う。
「あっちだ! 森の奥から撃たれてるぞ!」
「ひとりしかいないのか? なら、兵じゃないな!」
「英雄気取りかよ! さてはイモータルだな!?」
好戦的な叫び声が続く間も、一定間隔でライフルの銃声が鳴る。そのたびにひとり、またひとりと絶叫に変わっていった。
この調子ならラカだけでどうにかなりそうだけど――だからこそ、作戦が成功するというものだ。
「ふー……」
息を鋭く吐き、なぜか敵の銃弾が当たらないアクション映画の主人公になった気持ちで敵のど真ん中へと歩み出す。
ギャングたちは全員ラカに気を取られ、その相棒が背後から回り込んでいるだなんて少しも思っていない。
だから、落ち着いてひとり目を見定めることができた。
ラカにとっては、射程距離の短いリボルバーよりもライフルのほうが危険だ。わたしは手近なライフル使いに忍び寄り――
《スキル〈生体理解 Lv2〉が発動しました》
《スキル〈短剣 Lv2〉が発動しました》
背中にナイフの切っ先を突き立てた。
「おぐっ!?」
ライフル使いはこちらに振り返ろうとしながらも膝をついた。わたしがナイフを引き抜くと、地面にばったりと倒れ伏す。
わーお。わたし、暗殺者っぽくない!?
そう喜んだのも束の間、リボルバー使いと目が合ってしまった。
「あ」
「もうひとりいるぞ! セリアノだ!」
はい、暗殺者気分おしまい。
敵が銃のトリガーを絞るのも、弾丸が硝煙に押し出されるように飛び出してくるのも、わたしの目にははっきりと見えた。
《タレントスキル〈
どくん、と。
胸が高鳴り、全身を巡る血がぞわぞわ騒ぎ出す。
集中状態に突入し、何もかもの動きがゆっくりになる。それはわたし自身も例外ではないけれど、敵の弾道を見切る手助けにはなってくれた。
弾丸を躱すと同時にCPがごりっと減る。
わたしは姿勢を低くして突進。思い切りリボルバー使いにぶつかっていく。
ナイフの刃がお腹にずぶっと埋まる。鹿よりも柔らかい肉の感触。
「ご……のッ!」
リボルバー使いは銃のグリップでわたしを殴ろうとした。その部分が木製だとしても、鈍器を振り下ろされるようなものだ。
わたしは反射的に体を離して、破れかぶれの打撃を回避。それから改めて攻撃に移る。
〈生体理解〉スキルの恩恵で、人体の急所が点々と輝いていた。片っ端からナイフをさくさく突き刺していく。
……この動き、モーション・アシストだからね。わたしが殺意を大奮発してるワケじゃないからね。自分でもびっくりしてるんだからね。
なんて、戸惑ってもいられない。
「畜生! こいつ速いぞ!」
別のギャングがリボルバーでわたしを狙っている。
これはまずいかも。さっきの回避でCPを消耗してしまったから――
あれ。ゲージがすでに満タンになってる。どうして?
理由はすぐに思い当たった。
さっき発動した〈
四方八方から撃たれさえしなければ、平気!
発砲されるのを見てから体を捻り、やや不安定な体勢からナイフを投擲する。
《スキル〈投擲 Lv2〉が発動しました》
弾丸とすれ違いに飛んだナイフはギャングの肩に命中。しかし、それでは命を奪うに至らない。ギャングは顔を歪ませながらも二発目を放とうとした。
わたしも〈ケルニス67〉に持ち替えている。こちらのほうが速い!
《スキル〈拳銃 Lv2〉が発動しました》
弾丸は胸に命中。ギャングはもんどり打って倒れた。
よしよし、やれてるぞ――
「こいつ!」
次の獲物が現れた。わたしはノリノリでそちらに振り向き――硬直する。
向けられているのはライフルに似ているが、二連式の銃口。
ショットガン!
確か、アレだ。小さな弾がどばっと出てくるから『散弾銃』。
そんなの、
しかし次の瞬間、錐揉みに吹っ飛んだのはわたしではなく、ショットガン使いのほうだった。ラカが狙撃してくれたのである。
わたしに気を取られた敵が、次々とラカに屠られていく。一発それぞれが必中にして必殺だ。銃声が鳴るたびに人が倒れていく光景は一種のホラーだ。
あっという間にこの場のギャング全員を倒し終えてしまう。
だというのに、森から出てきたラカは涼しげな顔だった。
「よっ、疾風怒濤のアマルガルム族! さすが、ネネ。初心者と思えない度胸ね。や~、撃つのも忘れて見惚れちゃったわ」
「それは忘れないでほしいなっ」
憤慨するわたしとご満悦なラカ。
要素だけを抜き取れば微笑ましい光景かもしれないけれど、周りは死屍累々。わたしのマントも返り血を吸って赤く濡れている有様である。
……客観的に見たら、どっちが悪者かわからないよ、これ。
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