5 自分のギターを弾くしかない!


2018年、元の時間はどうなっているのか。いつまでもこのままで居られない。何か戻れる方法がある筈だろうと、腕を組んでうーんと唸り考えてみる。


(音を出してた時に過去に来たんだったから、戻る時にも同じ事をすればいいんじゃないのか?)


しかし、ここにあるPCにはその時と同じサウンドデータは入っていない。

ガラス窓の向こう、レコーディングブースに置かれた自分のギターに視線を移す。


(だったら、同じ曲を弾く……か?)


このまま何もせず元に戻れないよりかは、やってみるしかない。智幸は腰を上げて、重たいブースの扉を開きながら小さく呟いた。


「あー! もうやけだ!」


デビューした頃から使っている、白黒ツートンカラーのストラトギター。手に取ってストラップをかける。

アンプにシールドを繋いで、エフェクターのセッティングをしてからピックを持ち、音を鳴らしながらチューニングをして音程と音色を合わせる。


(これでなんとか……。仕方ねぇ、いっちょ弾いてみっか!)


ここで、智幸の記憶にしかないメロディ。

左手でネックを掴み、右手でピックを弦にあてる。

小声でカウントを呟く。


「ワン、ツー、スリー、フォー」


前奏のリフに続いて、ギターの6弦を掻き鳴らすカッティング弾きをする。

つま先で軽くリズムを取り、口を開いて小さく口ずさむ。


  もう終わりかとピンチでも

  未来を信じろよ……


カレイドルが復活して、2枚目のアルバム1曲目の歌詞だ。

智幸が作曲し、ボーカルの一臣が復活への想いを込めて歌詞を書いた。


(楽しいな……)


ワンコーラスを弾き終えると、智幸は目を閉じて微笑んだ。




──よっちゃん、よっちゃん!


智幸はディスプレイの前で固まったまま、呼びかけに気づかない。肩を叩かれ、ハッと気づいて振り返った。


「あっ!」

「寝てたのかぁー?」


側に立っていた雅彦が、ゲラゲラと笑った。


ディスプレイを見ると、表示されているのは最新バージョンのレコーディングソフトウェアだった。データも元通りになっている。

智幸は目を見開き、マウス操作でシステムの時刻設定を確認する。

2018年だ。


そして周りを見回し、全て元通りになっていることを認識した。


「や、やったぁぁーーーー!!」


床から数センチ飛ぶ勢いで立ち上がって喜ぶ。急に大声を出すので、雅彦が驚いてびくっと首を引いた。


「何、どうした?」

「ああ、ははは、いや、さっきデータが消えたかと思って」


まさか、過去にタイムワープして戻ってきたなんて言っても信じないだろうし……

そんな考えが頭に過った智幸は、ごまかし笑いをした。


「?? バックアップしてあるし、吹っ飛んでも大丈夫だけど」


雅彦は、不思議そうな顔をして言った。


「良かったなぁ? うん、良かった!」


智幸は椅子から立ち上がり、雅彦に向き合った。


キョトンとした顔の雅彦は、金髪ストレートヘアを後ろで結んだヘアスタイルに、服は上下とも真っ黒なのは14年前と殆ど変わらない。だが年齢を重ねて深みの出た顔のパーツに、何よりも昔のような悲壮感が感じられない。円熟したミュージシャンの顔だ。

智幸はその顔をじっと見ながら、両肩を叩いてニコニコした。

雅彦は、さらに不思議そうな表情をして首を傾げた。


 * * *


実は、智幸が元の時代に戻れたのは、ギターを弾いた事ではなかった。

偶然発生した時空転送は滞在時間に制限があり、約20分で自動的に終了したのであった。


その後、過去の彼らはどうなったか。場面は2004年に戻る。

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