4 ジャンルがない俺たちの居場所


雅彦はソファに座ったまま、小さい声で話し続ける。


「俺らはさ、ヴィジュアル系じゃないし、かといってメタルでもないじゃん……」


カレイドルは、ロックバンドの中でもカテゴライズされにくい音楽性だ。ヴィジュアル系の美麗なファッションでもなく、逆にパンクバンドみたくラフでもない。

メタルっぽいリフ(印象強いメロディの繰り返し)はあるが、ゴリゴリのヘヴィメタルではない。ハードロックに近いが、それにしてはポップ過ぎる曲もある。だが、大衆ウケするポップスには遠い。

どこを取ってもサウンドが濃く、良くも悪くもアクが強いと言える。さらにボーカルの書く詩は幻想的でナイーブな傾向が独特の世界観を持っていて、特に生きづらさを心に抱える少年少女の心に刺さった。


雅彦は、ポツリポツリと話を続ける。


「何処に行っても、異端だって距離を置かれるし……居場所がない、のかな」


ヴィジュアル系のイベントには呼ばれず、大型の野外ロックフェスには一度出たきり、それも小さなステージで観客はあまり集まらなかった。

何よりも、カテゴライズされないと音楽メディアが扱いづらいのか取り上げないのだ。


「それにファンの評判を聞けば、インディーズの頃が良かった、デビューしてつまらなくなったって言われる……。それに、ギターが二人も必要か? よっちゃん一人でよくね? とすら……」


それが積み重なって、雅彦が最も大切にしているバンドのアイデンティティを不安定にさせていた。

すると、黙って聞いていた智幸は首を横に振った。


「――そうじゃない、俺はそうは思わないよ」


雅彦の隣に腰掛けながら、声を掛けた。


「バンドやってて何が嬉しいって、ライブでさ、ファンが楽しんでる顔を見るのが一番だよ。そう思うだろ? 評論家の評判でもないし、売り上げじゃない」


雅彦は軽く頷いた。そのまま智幸は、正面を向いて滑らかな口調で話を続ける。


「俺らさ、流行ってる音楽じゃないし、ヴィジュアル系にも入れてもらえない。でも居場所がどこにもないって事は、逆にさ、見る角度を変えると、どこにいっても目立つから気を引いてもらえるってこと。すげぇ!って驚かせて味方に引っ張れたらこっちのものさ」

「……そうか」


――でも当時はそんなこと、考える余裕なんてなかった。智幸は振り返って思う。

バンドが復活した後、やっと客観的に自分達の良さを、アドバンテージを理解するようになったんだ。


「俺たちさ、ギター二人でやってきて、どっちが要らないなんて一度も思った事ないよ」


微笑んで話す智幸の顔を見て、雅彦は答えた。


「ああ。もちろん、俺だって」


虚ろだった雅彦の目が輝き出した。


「俺はよっちゃんの書く曲で、ギター弾くのが好きなんだ。うん、自分の曲より好きかも。……俺の曲でも、よっちゃんがギターを入れるのを考えて作るし。そしたらよっちゃんは、俺の想像を超えるカッコいいギターを入れてくる。だから今までどこも聴いた事もない曲が出来上がる。それがサイッコウに嬉しい!」


雅彦は気分が乗ってくると、早口で饒舌になる。


「居場所はここ」


智幸は、自分の胸の辺りで一本指を立てて言った。


――カレイドルは、俺たちの始まり。一度はバラバラになったけど、必ず戻ってくるホームなんだ。


「大丈夫。そこにいる奴も、同じ事思ってるって、きっと」


ガラスの向こうに見える聡史に視線を向けて、智幸はしっかりと言った。


「うん……ありがと、よっちゃん」


雅彦の両眼が少し潤んだ。


 * * *


雅彦が作業にかかって黙ると、智幸はハッと思い出した。


(さて、これからどうやって元に戻ればいいんだ?)

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