2 おじさんギタリスト、タイムリープで若返り


慌ててヘッドホンを外し、PCのディスプレイを覗き込む。マウス操作でウインドウを切り換え、システム設定を確認する。


(バージョンが古い……? どういうことだ、これは)


10年以上も前のシステムで、ソフトウェアのバージョンも当時のものだった。


(そんなバカな、システムが入れ替わったとでもいうのか?)


システムの時計設定を見ると、日付が2004年9月と表示されている。


(なにっ? 時計が狂ってる……?)


PC本体を見ると古い型で、辺りを見回すとレコーディングの機材までも古い。

椅子から立ち上がり横を向くと、ガラスに自分の姿が映し出された。自分の服装が変わっていることに気づいた。


(ん? 昔着てた服だな)


ガラスに近付き、自分の足先から全身をよく眺める。

全体的に少し痩せている。特に腹まわりが細い。顎もシュッとしていた。


(はっ……? 俺、なのか?)


その姿は、明らかに歳が若返っていたのだ。


(っていうと、まさか……過去に戻った……? おいおい、SF映画じゃあるまいし)


ガラスの向こうに人影が見えたので、目を向けてみる。


(俺の他にまだ誰も来てない筈なのに……)


すると、レコーディングブースの隅で楽器に囲まれた中、俯いてなにやらあれこれと機材を操作している男が居た。


(あれは大久保か……? 大久保まで前の姿じゃないか!)


バンドメンバーの1人だ。小柄のベーシスト、大久保聡史の体型も現在に比べてだいぶほっそりとしている。

何よりも髪型が変わっていた。活動停止後に長髪をバッサリと切って短髪にしていたのだが、ここでは昔の姿であった。天然パーマのもっさりとした長髪を後ろで束ねている。


(本当に、2004年に戻っちゃったのか……? どうせならもっと、18歳まで戻りたかったぜーっ!)


智幸は頭を抱えた。

突然、智幸の精神だけが2018年の現在から2004年、14年前の過去に飛んでしまったのであった。

つまり44歳の智幸は、肉体が30歳になっているという訳だ。

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