イップス

校庭で二人だけで野球をやっている小野坂と高碕。


「俺、ストレート以外の球種ならなんだって投げれないぞ。球速も170キロにいかないくらい早いぜ」


「つまりストレートだけの球速170未満の遅いボールってことか。ってそれスローボールじゃね?」


「そういうことは俺の球を打ってからいいな」


高崎が振りかぶって投げる。


カキーン!


「あ、くそっ」


小野坂はボールを打ち上げてしまった。


「捕ったー!」


高崎は打ち上がったボールをダイビングキャッチした。捕ったことをアピールするようにグローブを高々と掲げたが小野坂は呆れていた。


「色んな意味でアウトだな」


高崎のズボンがダイビングキャッチの勢いでずり落ちており、パンツが見えてしまっていたからだった。


「なにをやってるんだい?」


二階堂が通りがかり、涼し気な声で小野坂に聞いてきた。


「なにって野球だぞ」


「そう。彼がパンツ一丁だからてっきり野球拳でもやっていたのかと」


「あれは好プレーのたまものだから許してやってくれ。二階堂は野球できるか?」


「出来るよ。これでもなかなか投げれるさ」


「へ~。そんじゃ朔と交代してみるか?」


「いや止めておくよ」


「なんだよ~。ほんとは投げれないんじゃないのか~?」


「いや彼女に打たれたことを思い出しそうなんだ」


「は? 彼女?」


「そう。前に付き合ってた彼女が野球をやってみたいって言うから二人でやってみたんだ。始まる前はのほほんとしていた彼女がバッターボックスに入った瞬間空気が変わってね。僕の背中がゾクリとしたよ。なぜかストライクゾーンが狭く感じるんだ。僕は持てるすべての球種を投げた。ストレートから始まり、スライダー、カーブ、フォーク、シンカー、シュートとね。で、全てホームランさ」


「マジか・・・」


「渉。二階堂となに話してたんだ?」


二階堂は一通り話したあと行ってしまった。そこへ高崎が戻ってきた。


「二階堂がいかにしてイップスになったか、っつうのを話してた」


「え、二階堂イップスなの? なんで?」


「彼女にことごとく打たれたんだと」


「それなら俺もそうだぞ」


そう自慢気に言う高崎。


「俺も中学のときに野球部の女子に告白したことあるぞ」


「そうなん?」


「『俺のこの真っすぐな思いを受け取ってくれ!』ってどストレート投げたらピッチャー返しされた。しかもゴールデンデッドボールだ。薄れゆく意識の中『いい返事だ・・・』って言ってた気がする。あとはバッティングセンターの120キロコースで『好きだー!』って愛を叫びながら打ったら、その女子が150キロコースに入って『ごめんなさーい』って言いながらホームランの看板にぶち当ててたな」

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マジかよっ 有金御縁 @69de74hon

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