タコ

「昨日関西からわざわざ俺んとこに出張ってきた野郎がな『今から悪ぅたこ焼き屋店主のおっちゃんと同じ目に合わしたる』って口上言ってな。意味がわかんねえから聞くとよ『その店のおっちゃんが中にタコ入れずにイカ入れてたんや。だからちっとばかしヤキ入れてやったんや。ま、入れるのはタコやないといけんけどな』 口は達者な野郎だったが返り討ちにしてやったら血を吐きやがったんだ。墨を吐かねえでよ」


「わざわざ関西から出張ってくれたのに手荒い歓迎だな」


不機嫌そうな鬼島に小野坂は呆れたように言った。そこへ高崎がやってきて会話に入った。


「鬼島はタコがなんでタコなのか知ってるか?」


「あ? 知んねえよ」


「俺が思うに初めてタコに遭遇した人の手に絡みついてきて、そのときに『放せこのタコ!』って言い放ったのが由来だな」


「それは由来じゃねえ。まんまだろ」


小野坂がツッコんだ。


「絡まっているタコを『引っ張りだこ』したからタコになったか、外国の人が『これは悪魔の魚だ』って言い張ったのを『なに言ってんだ! どこが魚だこのタコ!』って返したのが由来だな。あ、外国人が『オクトパス』って言ったのを日本人が『タコに聞こえる』って聞き間違えてタコになったのかも」


「聞き間違いとかそんなレベルじゃねえな・・・。鬼島はどう思うよ?」


「知らねえよ。おおかた拳からでも来てんじゃねえのか」


「いや拳ダコより耳かもな。『こいつの名前ってなに?』って話を何度も聞いてたら耳にタコが生まれて『じゃあタコってことで』」


「だからまんまじゃねえか。意外とテッキトーにつけただけじゃねえの?」


「どうだろうなあ。あ、タコなら俺らより関西の人のほうが詳しそうだし、今度関西の人がケンカしに来たらタコの由来を吐かせてやってくれ」


「どうやって?」


「そりゃあタコ殴りで」

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