パシリ走法

「足が速くなりたいから良い練習法がないか調べたら『イメトレがいい』って出てたからウサイン・ボルトをめっちゃイメトレしたんだけど、一向に早くならないんだよな」


「イメージ先行が凄すぎて体がついていけてねえんだなそりゃ。もう少しイメージしやすいレベルにしたほうがいんじゃね?」


「イメージしやすいかあ。10秒の壁を超えるイメージとかやってた人いたけど、その人は結局ロッククライミングが上手くなってたんだよなあ。あ、ポーズ取るウサイン・ボルトなんてどうだ?」


「ウサイン・ボルトから離れろよ。まずは自分が走ってるとこをイメージしろよ」


「それはすでにイメージしたけど、必ず先生に『廊下は走るな』って怒られて終わるんだよな」


「廊下で走るイメージをすんなよ。あとイメトレだけして普通のトレーニングしねえとかもねえな。理想と現実のギャップがあればあるほどから回っからなあ」


「イメトレでふつトレはどうだ?」


「それは結局イメトレだ」


「でも普通の練習ってキツくないか?」


「だからやんだろ」


「でもキツイよなあ~」


高崎がめんどくさそうに言っていると鬼島が口を尖らした。


「けっ。うだうだ言ってねえでまずは走ったらどうよ」


「だな。鬼島ももっと言ってやれ」


小野坂は鬼島の言葉に同調した。鬼島は高崎を睨みつける。


「そんなに走んのが嫌なら、てめえをパシってもいんだぜ?」


「パシらせんの?」


「ああ。中坊のころに『足田』っつうナヨナヨした野郎がいてな、よくそいつに『3分以内に焼きそばパン買ってこいや』ってパシらせてたんだ」


「出た焼きそばパン。パシリ御用達だよな」


それだ、という風に指を差す高崎。


「なけりゃあんパンだがな。二つとも売り切れてたときに足田の野郎焼きそばあんパンなんつーもん買ってきやがったこともあんがな。まあ不味いのなんのってよお」


「あんかけ焼きそばならなんとかイケそうだけどな」


「他にも自販機で3分以内に炭酸買ってこさせてたら、開けた瞬間噴出してよお。聞くと急いで買ってくるために猛ダッシュした際に手に持ってたから、だとよ」


「そのパシフィック足田って人は今なにしてるんだ?」


「短距離選手やってんぜ。だんだん俺のパシリで買ってくる時間が短くなってよ。中学最後の方にゃ1分の壁を突破してたぜ。そんでその磨かれた走力を今発揮して今じゃ高校一年ながら県内トップクラスだ」


「すげえな」


感心する小野坂。


「ただ問題なのはパシられてると思えねえと本気出せねえんだとよ。パシリ走法ってやつでな。俺に『何秒以内に1位取ってこい』みてえなこと言われねえとモチベーションが上がらねえんだとよ。おかげでこっちは野郎の大会に顔出しに行く羽目になったりしてんだ」


「因果応報ってやつだな。朔はどうだ? 試しにパシってみっか?」


「そういえばウチの購買に蕎麦パンっていうめっちゃ不味いパンあったな。それでも買ってくるか」


そう一人ごちる高崎を見て鬼島は舌打ちを鳴らす。


「やっぱやめとくわ。こんな野郎にパシラせたらなに買ってくっか分かりゃあしねえからな」


「確かにな。朔にパン頼んだらおにぎりでも買ってきそうなアントワネット式パシリでもしそうだしな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る