メガネ・コンタクト戦争5

「鯖江はほんとメガネ好きだよな」


「そりゃあな。なんたって俺はメガネに目がねえんだ」


「それなら自分でかけたらどうだ?」


小野坂が聞いた瞬間、鯖江は顔を落として悔しそうに握りこぶしを震わせ消え入るような声でつぶやく。


「・・・良かったんだ」


「は?」


「視力が! 良かったんだ!」


顔を上げて訴える鯖江の表情は悔しさでいっぱいだった。


「良かっただけに俺にとっては良くなかったんだ! 俺は一番下のランドルトがはっきりと見えてしまったんだ! おもわず目まってしまうほどの良さだったんだ! メガネが絶望的になるほどの視力が分かってどれだけエドムントを憎んだか・・・」


「そ、そうなんか・・・。でもすげえな。視力検査の一番下がはっきり見えるってどこぞのアフリカの民族だけしか見えねえもんだと思ってたわ」


「そんな俺を水谷はあざ笑うかのように一番上のランドルトが見えないときた! アイツは俺に向かってニヤニヤしながらこう言ったんだ! 『お前には見えねえ景色が俺には見えんのさ』ってなあ!」


「まあ確かに視力がいい奴には悪い奴と見える景色は違えかもな。鯖江は伊達とかしないのか? それなら視力関係ないだろ」


「度が入っていないメガネをするなんて度が過ぎる」


「別にいいと思うけどなあ」


小野坂はあきれるように言った。


「鯖江もべつに最初っからコンタクトが嫌いだったわけじゃなねえんだろ?」


「ま、正直コンタクトの存在に最初知ったときは目からウロコって感じはした。でも今はこう言いたい『ウロコするならメガネしろ』とな。俺が中1の頃、体育でバレーの授業あってボールが顔面直撃した奴がいたんだ。それでそいつは両目のコンタクトを落としてしまったらしく周りにいた人たちに探して欲しい、って頼んだんだ。必死に周りの奴らがはいつくばって探してるって言うのにそいつは涼しい顔して探してくれてる人たちを眺めてるんだ。俺が『なんでお前は探さないんだ?』って責めるとそいつなんて言ったと思う? 『コンタクト落として何も見えないから探せない』だと。バレーの反則技にダブルコンタクトっていうのがあるけど、まさしくそいつことだ」


「けどよ、コンタクトじゃないと危ないだろ。特にバレーとかは」


「そのあとだ。そいつは『コンタクト使っててメガネはもう用済みだから持ってない』って言い放ったんだ! 思わず俺は『そんな言い方あるか! 今までどれだけ目をかけてきたと思ってるんだ! どれだけメガネに視力助けられたと思ってるんだ! その恩を忘れて目移りなのか!?』って言ってやったんだ」


「鯖江はコンタクトしてる奴とのファースト・コンタクトが最悪だったから嫌いになったってことなんだな」

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