パイロキネシス

「空飛んでみたいと思わん?」


「まあ誰だって一度はあんだろ」


「だよなあ」


小野坂が共感してくれたことに満足そうにうなずく高崎。


「俺さ、祖先に文句言うのもなんだけど、もうちょっと上手い具合に進化してくれればって思うんだよね。だって上手くいけば飛べてたかもしれないだろ。あああと水の中でも息できるようにしてくれれば良かったな。ま、あんまり文句言うのもなんだけどな」


「文句を言えるように進化したんだからいいだろ」


「進化といえばダーウィンっていう人いるだろ?」


「ポ〇モンに多大な影響を与えた奴だな」


「進化論を唱えたときってダーウィンは周りの人たちから『そんなこと唱えるならお前のどこが進化したのか唱えてみろ』って言われたと思うんだよな。で、俺考えたんだけど、もしダーウィンが進化したら『ダーウィツ』か『ダーウィシ』とかになると思うんだ。突然変異でもあれば『ダーウィソ』になるかもしんないけど」


「くだんねえな」


高崎の説にあきれる小野坂。

二人が話ていると戸々竹も話に加わってきた。


「俺たちは上手くいけばパイロキネシスになってたかもしれないぞ」


「空、水ときて今度は火か」


「原始人が火を使い始めた頃を短編映画にしたのを観たんだが――」



◇ ◇ ◇



「お前なにしてんの?」


原始人がしゃがみこんで何かをしている別の原始人に声をかけた。


「焼いてんだよ」


「や、やいて? なにその言葉?」


「お前これ食ってみ」


「なにこれ? 肉?」


こんがりと焼けた肉を差し出され目をパチクリさせる。


「おう。アレ使って焼いたのよ」


うしろの焚火を指さすと原始人は恐怖に顔を染めた。


「ひいっ!!」


「そうだ。火ってやつだ。あ、ちなみに『火』って俺が言い始めたんだ」


「あ、あ、あれは危ないぞ! 俺の防衛本能が警告してる!」


「大丈夫だって。上手く使いこなせりゃ危なくないし、肉も美味くなる。ほらいっぺん食ってみって。美味いから」


「あんな危ないので作った肉なんて危ないんじゃ・・」


「食ってみって」


差し出されたお肉をオズオズとかじると途端に驚いたように目を見開いた。


「こ、こりゃうめえ!」


「だろ?」


「こんな美味いもん作れるなんて・・・お前なにもんだよ!」


「原始人だ。火の使い手のな」


「ひ、火の使い手?」


「火を使って肉を焼く、俺しか出来ねえぜ?」


自慢気に原始人は言った。


「す、すっげ~。その火とかいうの使うなんて発想、怖くて俺には出来ないわ~」


「長い道のりだったが、ついに防衛本能の壁を越えて使い手になったわけよ」


「火の使い手になると美味い肉が食えるようになるのか~」


「まあな」


お肉を食べ終わり一息ついた原始人。


「はあ~。美味かった~」


「お粗末様」


「そういえばお前さ、俺らの集団に北とか言う所からやってきた奴がいるの知ってるか?」


「いや知らん。誰だそいつは?」


「ほら、あそこの岩陰でくるまってる奴」


「あいつか」


岩の窪みにくるまっている原始人を指さした。


「ちょっと声かけてみるか。おい、そこの原始人。お前だよ、お前。北とか言うところからやってきたって?」


「・・・・・」


しかしくるまったまま何も反応しない。


「おい、なにか言えよ」


「・・・・・」


「おい、俺は火の使い手だぞ。なんか言わねえと火傷すんぞ」


くるまっていた原始人は目を合わそうとはしなかったがポツリと言った。


「・・・逃げてきたんだ」


「あ?」


「俺はここに移住しに来たわけじゃなくて逃げてきたんだ・・・」


そう話す原始人の表情は恐怖に怯えているように見えた。


「逃げてきた? そりゃまたどうして?」


「放火にあったんだ」


「ほ、ほうか? なにその言葉?」


「ここにも火の使い手がいるようだが、まだ放火された経験がないんだな」


「も? ってことは俺意外にも火が使える奴がいたのか?」


その言葉に原始人は肯定するように頷いた。


「俺がいた集団はな、みんなが火を使うことが当たり前だった」


「「え・・・」」


「そんな集団の中にある日火にとり憑かれた奴が出て来たんだ。俺たちはそいつの火の使い方が荒いことに恐怖し、畏敬の念を込めてこう呼んだ『炎の使い手』と・・・」


「ほ、ほのお? な、なにその言葉?」


火の使い手はわけが分からない様子。


「火の使い手より格上だ」


「格上・・・」


「炎の使い手は肉を焼くだけじゃ飽き足らず、色々なものに火を点け始めんだ・・・」


くるまっていた原始人は震え始めた。


「気づけば俺たちが住むところは焼け焦げ、肉たちも寄り付かなくなってしまったんだ・・・」


「・・・・・・・」


話を聞いていた二人の原始人は唖然としていた。


「それでも俺たちのところはまだマシらしい・・・。もっと北の方には紅蓮の使い手がいるらしいんだ」


「ぐ、ぐれん? なにその言葉?」


「炎にとり憑かれた者だそうだ。噂によると、そいつがいるところは火の海に囲まれ、山を焼き尽くすほどだそうだ・・・」


「もう、ワケわかんねえ・・・。そいつなにもんだ?」


「たぶん火の星から来た火星人だろう・・・」


「原始人じゃないの・・・?」



◇ ◇ ◇



「――っていう映画を観たんだ。上手くいけば今ごろパイロキネシスだな」


「それは火星人の場合だろ」

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