手料理

「俺、結婚したらあれやってもらいたいんだよな。御飯にする?ってやつ」


「そ・れ・と・も、ってやつか」


「そ。それともにする? それともそれともにする? そ・れ・と・も、それともにする?」


「それともしか言ってねえ。まあでも味噌汁とか憧れるな」


「へえ。渉も意外と乙女だな」


「待て。味噌汁で乙女扱いすんじゃねえ」


「でもプロポーズの定番だからなあ。思ったけどそのプロポーズは相手が関西の人だったら通用しなさそうだよな」


「は?・・・ああ、白みそのこと言ってんのか?」


「そう。あ、でもその白味噌汁に惚れましたって意味でならいいのか。あと相手がフランス人だったら『僕にフランス料理作ってくれませんか?』って変わるのかな?」


「とにかく俺は彼女の手料理だったらなんだって嬉しいぜ」


「手料理ねえ。家に帰ると彼女が右腕を背中に隠してるあれか」


「なんだそりゃ?」


「彼女が『今日はすっごく手の込んだの作ったの。手間をかけて手ずから手掛けたお手製料理だから。隠し味に手心くわえたから』。で、渉はお手製ならなんでも美味しいって食べる。彼女は『あの手この手で試したけどやっぱりお手製じゃないと胃袋は掴めないと思ってね。だから手ダシできるくらいまで煮込んだんだ』そういう彼女の顔がだんだんと青ざめていく。『きみを手中に収めるには手段を選んでられないからね。――いやもう君の中に収まったちゃったかな?』っと彼女は背中に隠していた右腕を見せると、あるはずの右手が――」


「やめいアホ」


小野坂は高崎の頭をはたいた。


「『隠し味は利き手の逆。ほらよく言うでしょ? 利き手とは逆の手で食べると脳に良いって。あ、残ったのは手土産に持って帰る?』って彼女は真っ青な優しい笑顔で言うかも」


「ホラー苦手なくせにサイコなこと言うんじゃねえよ」


「え、最高?」


「それを最高という奴も立派なサイコだ。俺は普通の手料理でいんだ」


「フランス料理?」


「違え。まあ定番だと肉じゃがとかだな」


「あ~。よく言うよなあ。じゃあ週7朝昼晩間食含めて全て肉じゃがでいくか。それならホールドストマック確定だな」


「それもある意味サイコがかってんぞ・・・」

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