走れず泳ぐが泳げず
「小学生のときに、水の上を走れるか水泳の授業の時にやってみたんだ」
体育の水泳の時間、プールサイドで高崎朔は水面を眺めながら言った。
「ああ、誰でも一度はやれそうじゃね?って思うやつか。で、どうだった?」
「小学生の俺にはまだ早かったな」
「だろうな」
なぜ走れないのか不思議そうに言う高崎に小野坂はいつものことかと相槌を打った。
「だから中学生になれば走れるようになるだろって、中学のときにやったら―――」
「やったら?」
「どういうワケか、走れんわけだ」
「別にワケないんじゃね?」
高崎は走り出す構えを見せる。
「というワケで、さすがに高校生になれば走れるようになってるはず」
バッシャーーーン!!!
「お~い。大丈夫か~?」
小野坂がブクブクと沈んでいるところに一応気に掛けるとプハッと水面に高崎が顔を出して不思議そうにしていた。
「大学生じゃないとダメか?」
「急に飛び込んむんじゃねえよ」
小野坂は呆れていた。
「飛び込んでない。走ろうとしただけ」
「もし走れたとして、今は他に泳いでいる生徒がいんだから危ねえだろ」
「そうなると、ちゃんと走るためのコースが必要だな」
「水泳の授業中だ」
「でも泳いでたら走れないぞ」
「しごくまっとうそうで、まっとうじゃねえな。あんまりしてると遊走禁止区域の指定食らうぞ」
「俺さ、もし走れたら全国男子水上競技25mの大会に出ようと思ってんだ。そんでウォーターランボーイズやりたい」
「もし走れたらお前のあだ名はたぶん河童のサンちゃんならぬ、バジリスクになんな」
二人がプールの淵でしゃべっていると二階堂がやってきた。
「随分すごい水しぶきを上げたね」
二階堂は自分の髪の毛をかき上げながら涼しげに言った。
「二階堂は水の上を走れるようになったらモテると思う?」
「それは間違いないね」
高崎の疑問に即答。
「溺れてる女子を走って助けにいけたら、それは間違いない。僕も彼女と海水浴行ったときに
『もし私が溺れたら真っ先にライフセーバーを呼んでね』
って、言われたことあるね。僕としては彼氏である僕が真っ先に助けに行きたいわけで。そう伝えたら
『彼氏よりプロに助けてもらったほうが全然安全だから』
って」
「そらそうだ。下手な彼氏よりプロ、だな」
小野坂は頷きながら言った。
「僕はどうしても助けたいって言ったら彼女は
『じゃあ条件がる。私が溺れたらバタフライで助けに来てね』
まずいことに僕はバタフライが出来ないんだ。彼女にはそのことがすぐにバレたんだ。なぜだと思う? 彼女曰く
『だって目が泳いでた』
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