背負ってるものが違う

「あ、小野坂さ~ん」


 廊下で声がし小野坂が振り返ると尾花が手を挙げてあいさつをしながらやってきた。


「このまえの柔道世界選手権見ましたか~?」


「柔道? お前柔道好きなのか? てっきりそっちの方しか興味ないのかと思ってたけど」


「いえ僕はそこまで好きではないんですけど、優勝した人がちょっとした話題になったんですよ~」


「もしかして・・・もしかしてなのか?」


「そうなんですよ~。全部背負い投げで一本勝ちした選手なんですけどね~。やっぱり普段から背負ってるものが違う人って強いですよね~。肩に重圧とは違うものがのしかかってましたし~。柔道は『霊に始まり、霊に終わる』って言うくらいですから相性はいいかもしれませんね~。霊を欠いたら負けっていうくらいですし~」


「その霊じゃないと思うけどな・・・」


「でも取り憑いていた幽霊も柔道着来て黒帯までしててやる気がみなぎってましたね~。優勝決めた瞬間なんて嬉しくて成仏しそうになってましたよ~」


「してはいないのか・・・」


「優勝インタビューでその選手が『もう思い残すことはない』って言ってたんですけど、幽霊さんも『同じく』って応えてましたよ~」


「え、しゃべってんの聞こえんの?」


「ええそうですよ~。ゴーストランゲージって言ってリスニングの練習していれば聞こえるようになりますよ~」


「練習って・・・」


「あ、よかったら聞きますか~?」


 尾花が制服の内ポケットからカセットテープを取り出して差し出してきた。


「この中に幽霊の声が吹き込まれてますんで聞いてみます~」


「・・・・・・」


 小野坂はそのカセットテープからなにかおどろおどろしい感じがするのを感じ取りゾッとする。


「い、いや、遠慮しとくよ」


「そうですか~。聞きたくなったら言ってくださいね~」


「て、ていうか今時カセットなのか?」


「カセットのほうが趣があっていいそうで~」


「そ、そっか・・・」


 もうなにも言えない小野坂だった。

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