彼氏枕
「ん~。んん~」
「どうした朔?」
首に手をやって眉をひそめる高崎朔に小野坂が声をかけた。
「なんか首が痛いんだよな~」
「寝違えたか?」
「ん~。そうかもな~。考えられるとしたらそれしかないかな~。これが彼女の膝枕だったら寝違えても本望なんだけど」
「確かにな~」
「二階堂は彼女の膝枕で寝違えたことある?」
高崎が教室の窓際で髪をかき上げる二階堂叶に聞いてみた。
「寝違えたことはないよ。あ、ちなみに僕は膝枕をしてあげたこともあるよ」
二階堂は涼し気に応えた。
「へ~。で、彼女は寝違えた?」
「いや寝違えてはいないさ。ただお気に召してくれなかったよ」
「え、どういうこと?」
「彼女は僕とのデートでまず」
『ふああ~あ。おまたへ~』
「大あくびをしながら来たんだ。それも目の下にすごいクマが出来ててね。大丈夫?って聞くと――」
『あ、これ? 今日のデートが楽しみで全然眠れなかったんだよねえ』
「彼女は目の下をこすりながらそう言ったんだ。それはそれとして嬉しいことだけど」
『ふああ。今頃になって眠くって眠くってデート中に寝落ちしそう』
「僕は今日はやめようか、と提案した。なんせ目の下こすりまくって今にも睡魔の精が出てきそうでもあったしね。でも彼女は、せっかく来たんだし、近くの公園のベンチで寝ようって寝る気満々だったね」
『枕になってほしいんだけど、いいかな?』
「ベンチに並んで座った僕に彼女は上目遣いで言ってきたんだ。僕はいいよと言うと彼女は僕の両腿をホコリを払うようにはたいてから」
『そんじゃ膝枕借りるね』
「彼女は目を閉じた。しばらくして僕は膝枕の心地はどうか聞いたんだ。すると彼女は眉をひそめた。僕は寝れそうかい? と確認すると無言のまま彼女は膝枕から頭を上げたんだ。そして彼女は僕の肩をホコリを払うかのようにはたいてから今度は肩に頭を乗せてきたんだ」
『ちょっと肩枕借りるね』
「またしばらくして僕が肩枕の心地はどうか聞くとまた彼女は眉をひそめたんだ。彼女はまた無言で肩から頭を上げた」
『腕、伸ばして。ベンチに手を回す感じで』
「僕は言われた通りにした」
『腕枕借りるね』
「彼女は頭を僕の伸ばした腕に乗せ目をつむった。しばらくして彼女に腕枕の心地を聞いたけど彼女はなにも応えない。僕は彼女が寝たのかと思った。すると彼女が一言」
『だめだわ』
「彼女は目をカッと開け立ち上がった」
『やっぱり帰って寝る』
「僕が寝心地悪かったのか、と聞くと」
『そうみたい』
「僕はベンチの上で正座をした。それでさっきよりは膝枕を高くして寝られるようにしたんだ。でも彼女は高くしたとこで何も変わらないと言った。僕はいつもどんな枕を使っているのか聞いたんだ」
『低反発枕』
「彼氏である僕の枕が彼女を高反発してるとはまさか思わなかったよ。彼女はかなり眠気を催してきたのか彼氏に隠さずあくびを連発さ。僕との会話で眠気を催すなんて僕の言葉は枕詞に違いない。寝直してくると言う彼女を引き留めようとしたら」
『このままじゃ確実にスリープモードに移行するから』
「僕の言葉が枕詞になるんだったら僕も一緒に行って睡眠のお供にどうか提案したら」
『いやいい。枕元に立たれても困るし』
「立たないし、ささやいてあげるだけと言っても」
『私、寝てるときに耳元でごちゃごちゃ言われるの嫌いなんだよね。彼氏とはいえ安眠妨害だから』
「待ってもらおうと思っても『待てない。眠い』の二言。僕の枕で寝て待てばいいと言っても『私果報は今いらないんで』の一言。僕という抱き枕は必要ないか聞いたら」
『寝言は寝て言って』
「彼氏の枕を枕投げしといて寝苦しく思わないのかい?と言ったら彼女は不敵に笑ってこう言ったんだ」
『枕の笑止』
「春はあけぼのじゃないし。やうやう白くもない。枕を濡らしたい気分ってこんな気分なんだと思ったもんさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます