雨と不良とネコ

「お、また雨か。昨日は雲行きが怪しくても降らずに済んで晴れ間も見えて怪しかったけど疑いが晴れたと思ったら今日のこれか」


小野坂が教室の窓から外を見て言うと鬼島が不機嫌そうに舌打ちをかました。


「梅雨空かなんだか知らねえがな、湿度が過ぎんじゃねえかおい。俺はシケた野郎は大っ嫌いなんだ。憂さを晴らすにもこの天気じゃ晴らせねえしよ。こっちは晴れ日照りだっつうのによお。たまに晴れ間かなんか出るが間はいらねえんだよ! 晴れろ! こっちはカンカン照りなんだよ!」


「カンカンだな」


「俺は雨が大っ嫌いなんだ。降水確率が3割、だから傘持たずに出たら降られたことがあんだ。7割どうしたんだ、7割はよお」


「あ~。あるあるだな」


「通り雨もそうだ。よくも俺が通るとこ通りやがってえ。俺を濡れ鼠扱いにする気かコラ」


「通らなきゃいんじゃね?」


「それが出来てりゃ苦労はしねえ。にわか雨の野郎もそうだ。にわかに雨なんざ降らせやがって。おかげで濡れ衣を着るはめになったんだぞ。梅雨ばいう前線だが知らねえが梅雨明け宣言出しちまえばいいんだ! そうすりゃ雨だって黙る」


「そんな簡単に明けましておめでとうにはなんねえだろがな」


「けっ。人間ってのは何度も打たれりゃ打たれ強くなるもんだが、雨に打たれるのだけは勘弁ならねえ。次に会ったときは容赦はしねえ」


「どう容赦しねえんだ?」


「傘を差してやらあ」


「雨ってなんで降ってるんだと思う?」


高崎朔が話に入ってきた。


「俺が思うに人間が傘を差すからなんだと思うんだ」


「俺らが要因か」


「雨が降ると傘を差すだろ。それを雨側から、上から見ると花が咲くみたいになるだろ。それを見て雨側はキレイだな~って。今日もどこかで良くなってるのかもな」


「良くなる?」


「『雨降って地固まる』らしいんで。でも、普通雨降ると地面はぐちゃぐちゃになるよな。あ、そうだ。不良って雨の日に段ボール箱に入った小ネコと遭遇するって聞いたけどほんとか?」


高崎が聞くと鬼島は少し考えるように上を向いた。


「一度だけあったな」


「あんのか」


 素直に驚く小野坂。


「別に拾うつもりもねえのに見てたら後ろを二人組の女子高生が通りがかってな――」



『ね。見てあれ』


『うわ、ヤンキーだ』


『しかも子猫に傘かざしてる』


『うわ~。子猫をダシにしてギャップ萌え感じさせようって魂胆でしょ~? 引くわ~』


『ね~。ヤンキーも堕ちたもんだ~』



「――あれにはマジでキレそうになったぜ」





学校から帰宅した鬼島。


「にゃ~ん」


そこへ猫が出迎えてくれた。鬼島が猫を撫でると猫は気持ちよさそうに目を細めた。


「ふん。お前も雨は嫌いだよな?」


「にゃ~ん」

 

猫が反応して鳴いたがそれが同意の意なのかどうか鬼島には分からなかった。



◇ ◇ ◇



映画研究部の部室にて諸星がスマホの画面を観ていると戸々竹がやってきた。


「ネコ? 動物もの観てるのか?」


「いえ。これ映画ですよ」


「そうなんだ。あ、そういえばこの前動物ものの動画観て癒されるって話を妹にしたら『病んでんの?』って言われたんだよな~」


「癒される余地があるってことからそう言われたのかもしれませんね」


「お前も動物ものの映画観て癒されようとしてるのか?」


「いや、これはどっちかっていうと世知辛い映画ですよ」



「うわあ。アンタん家の猫可愛い~な~」


女性が友人宅に上がると猫がトテトテと歩いてきて女性にすり寄ってきた。


「うおお。めっちゃ人懐っこいじゃ~ん。すげえスリスリしてくる~」


目じりが思わず下がる女性を見て、猫の飼い主である友人の女性は苦笑する。


「あんまり猫可愛がりすると猫って寄ってこなくなることあるから気をつけなね」


「いやあそう言われてもこんだけ可愛いとな~。毛並みもさらさらしてるし~」


「でも意外と可愛いくないとこもあるんだよその子」


「え~。こんなに可愛いだからそんなとこないでしょ~」


「ウチの猫の餌代、月3万」


「え・・・」


その言葉に女性が固まった。


「ね? 可愛くないでしょ?」


「・・・私の食費より高い」


「私もよ。飼い主なのにさ」


「・・・この猫いつもなに食べてるの? 高級なキャットフード? それともペルシャ料理?」


「お金」


「え?」


「お金」


「・・・お金ってその、これ?」


女性が親指と人差し指で〇を作ると友人はOKマークを作った。


「合ってる」

 

「あ、あれだよね? 餌代でお金を食うって意味で言ってるんだよね?」


「違う違う。ほんとにお金食べるんだよその子は」


「・・・いやいやまさっか~」


「ほんとだって。見てて」


友人が手提げバックから長財布を取り出すと女性にすり寄っていたネコがすごい勢いで友人に駆け寄った。

その様子を見て女性はあ然とした。


「ほらね? 私が財布を取り出したらこうだよ。じゃあ今から千円札お皿に出すから見ててね。ほ~ら。千円だぞ~。豪勢なご馳走だぞ~」


お皿に焼き魚よろしく千円札を載せると猫は嬉しそうに千円札をむしゃむしゃし始めた。


「う、うそ・・・。ほ、ほんとに食べてる。それも美味しそうに・・・」


「そりゃ美味いよ。千円もしたんだから」


「た、確かに額面通りではあるけども・・・。で、でもこれ食べて大丈夫なの?」


「それが大丈夫なんだよね~。健康診断でも問題ないし」


『マニィ~。マニィ~。マニィ~』


「え・・・。なんか鳴き声が『マニー』って聞こえるんですけども・・・」


「やっぱそう聞こえる?」


「・・・うん」


『マニィ~。マニィ~。マニィ~』


完食?したネコが友人に向かってねだるように鳴いた。


「だーめ。おやつはもうこれでお終い。まったく現金な子なんだから」


『マニィ~。マニィ~。マニィ~』


「うわっ。今度こっちに来た」


「あ、お金あげちゃダメだよ。その子癖になっちゃうから」


「あれ? なんかしきりに私のカバンの匂い嗅いでるけど」


「あ、もしかしてそのバックの中にお財布入ってる? その子お金の匂いに敏感だから」


「なんか嫌だなそれ・・・」


さりげなく猫から自分のカバンを遠ざけた。


「あ、あのさ。普通の餌は?」


「ああ。基本は500円玉とかだよ。10円玉じゃもうそっぽむかれちゃう。猫の額ほどってよく言ったもんだけど」


「あ、いや違くて。猫が食べる普通の餌のこと」


「ああ。そういうことか。もともとはこの猫も普通の餌を食べてたんだけど、ある時床に落ちてた1円玉を誤飲しちゃってね。そのときはすぐ病院に行って大事にはならなかったんだけど。それからなの。お金をせびるようになったのは。獣医さんも首傾げてたよ」


「でしょうね・・・」


「ま、お金さえあればいい子にしててくれるよ。金欠時なんてすんごい鳴いて現金催促してくるんだから。『早く出せ~』って。あ、あと誕生日に一万円札あげたことあるんだけど、マタタビ嗅いで酔っぱらっちゃったみたいになったんだよね。ドル札あげたときなんか『ドㇽㇽㇽㇽㇽ』って喉鳴らしてご満悦だったし」


「諭吉さんもまさか猫に食べられるとは思ってもいないだろうね・・・」


「今じゃすっかりお金にうるさい猫になっちゃったよ~。あ、ちなみにカードは受付ないよ。この子、現金主義なんだ」


「そ、そう・・・」



映画を観終わった戸々竹はなんとも言えない気持ちになっていた。


「・・・癒されねえな」


「そういう映画じゃないですからね」

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