眠気覚まし

「初めてコーヒー豆を発見した人って興奮して眠れなかっただろうなあ。そんで初めてコーヒー淹れたとき、興奮して眠れなかっただろうなあ。そんで飲んだとき、興奮して眠れなかっただろうなあ」


 高崎が感慨深げに言った。


「渉は、コーヒー飲めるか?」


「ああ。好きだぞ俺。ブラックでいける」


「マジで? 正気?」


「ああ。むしろブラックじゃないとダメだな」


「ブラック飲めるとかどうなってるんだ?」


「どうなってるって・・・。いや俺も最初は苦手だったけど、眠気覚ましに飲んでたらいつの間にって感じだ」


「じゃあ興奮するためにコーヒーを?」


「言い方な。言い方。っつうか朔はコーヒーだめだっけか?」


「飲めなくはないけど。砂糖と牛乳を入れた~紅茶が好きだな俺は」


「おい。土俵が違うじゃねえか」


「しょうがないよ俺は英国紳士だから」


「いつお前は日英同盟組んだんだ?」


「そういえば眠気覚ましと言えばコーヒー以外に歯磨きがあるよな?」


「ああ。俺もたまにやる」


「小さい頃だったかな~。『寝る前にちゃんと歯磨きしなさいよ』って母親に言われて歯磨きしたら目がさえて眠れなくなって母親に相談したら『じゃあココアでも飲みなさい』ってココア飲んで、さあ寝ようとしたら『寝る前にちゃんと歯磨きしなさいよ』ってまた言われて、なんでか聞くと『ココア飲んだんだから当たり前でしょ』って。そんで歯を磨いたらまた目がさえて眠れなくなって相談したら『じゃあココアでも――』って、ココア・歯磨きループに陥ったことがある」


「なんだそりゃ」


 高崎の話に呆れる小野坂だったが、なにか想い出したように


「ああでも俺一度だけコーヒーにすごい目覚ましかまされたことあったな」


「え、どういうこと?」


「宿題やるお供に眠気覚ましのコーヒー飲んでて、でもそんときはあんまり効かなくてうつらうつらしちまったんだ。で、その拍子にカップを倒しちまってコーヒーを宿題のプリントにザバーッてな。気づいた瞬間眠気ぶっ飛んだわ。『おかげさまで目が覚めましたよコンチクショー!』ってコーヒーに叫んでたわ」


「あ~あ。そこは紅茶にしとけばよかったのにな~」


「いや変わらねえだろ」


「もし英語の宿題だったら紅茶適面(効果てきめん)だろ」

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