並びニスト

「俺、大名行列に並んでみたかった」


「それはなんとなく分かる気もすんな」


 珍しく高崎朔の意見に同意する小野坂。


「2時間待ちとかかな? 並ぶためには整理券とか必要かな? あ、というか前日の夜から座り込みで並ぶとか?」


「いや座るというか、ひれ伏すことになるな」


「もし並ぶとしたら彼女と並んでみたいな」


「あ~、でもそれって話題がなくなったりすると気まずくなる可能性があるって聞くけどな」


「そのへん二階堂はどうしてるのか聞いてみるか」


 高崎は窓際の席で自分の髪をかき上げていた二階堂の元に行った。


「二階堂」


「なんだい?」


「二階堂って行列に彼女と並んだことってある?」


「もちろんあるよ」


 涼しげに即答する二階堂。


「列で並んで待ってる間に話題が尽きて気まずい思いしたことある?」


「そうだねえ。むしろ列に並ぶのが好きで並ぶことが目的化した子はいたよ」


「え?」


「あれは確か炎天下のことだったね」


『あの列、並びたい』


「デート中に彼女が大行列を見てそう言ったんだ。僕はやめようって言った。なにせ『ここから最後尾』のプラカードには2時間待ちと書かれていたんだ。この炎天下の中2時間はキツイし危ない。だけど彼女は不敵な笑みを浮かべてこう言ったんだ」


『並びがいがあるな』


「彼女は並んだ。僕も遅れて並んだ。僕は彼女にこの行列はなんの列なの?って聞いたんだ。すると彼女は」


『そのことと並ぶことになにか関係ある?』


「僕は真剣な様子で並ぶ彼女につまらなくならないように話かけたら」


『ちょっと。今話かけないでくれる? 並んでるんだから。なにその顔? こっちは本気で並んでるんだから生半可な気持ちで並ばないでよね』


「僕は覚悟した。彼女にとって並ぶことは戦いなんだと・・・。彼女は並ぶことを生業とする並びニストなんだと・・・。僕はそこから2時間、彼女と沈黙したまま並び続けた。この炎天下、僕は汗まみれで体力も限界になっていた。彼女の様子を見ると、まるで汗ひとつかいていない。いやむしろ極限まで集中力が高まっているのが見て分かった。そしてついにゴールが見えてきた。ゴールをした瞬間、彼女は満足そうにうなずいて僕に向かって――」


『並び終わったし、じゃ行こっか』


「――結局、なんの行列だったか分からないままさ」

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