カツアゲ

 机に足を投げ出して不機嫌そうに座る鬼島に高崎朔が興味そうにしていた。


「なあ、カツアゲとかするのか?」


「あん?」


 ギロリ と鬼島はにらみつける。


「不良ってカツアゲするだろ。ほらなんて言ったっけ? 『その場でジャンプしろ』だっけ? あれやらせるとお札がヒラッて服から落ちるんだよな」


「違え。小銭がチャリチャリだ。なんだあ? カツアゲされてえのかてめえは」


「俺今持ち合わせない」


「ふん。される野郎はみんなそう言うんだ」


「あ、信じてないな。これでどうだ?」


 高崎は目の前でジャンプし始めた。


「やめろ鬱陶しいんだよ」


「ほらチャリチャリしないだろ?」


 そう言いながらジャンプしていると制服の中から千円札がヒラッと床に落ちた。


「って、おい!」


「あ、やべ」


 高崎は床に落ちた千円札をズボンのポッケにしまい込む。


「な? チャリチャリしてないだろ?」


「待てコラ」


 鬼島は立ち上がり高崎の胸倉を掴んだ。


「出しな」


「え、なんのこと?」


「しらばっくれんじゃねえ。っつうか無理あんだろが」


「俺今持ち合わせない」


「早く出せ。痛い目見ねえうちにな」


 鬼島の迫力に押されて言われたとおりにポッケから千円札を出した。


「今の俺はカツ揚げたてみたいなもんか」


「けっ。つまんねえこと言ってんじゃねえよ。ホラよ」


「え、いいの? 悪いな」


「悪いもなにも元はと言えばてめえのだろうが」


 鬼島は先ほど取り上げた千円札を返した。


「お前らなにやってんだ?」


 千円札を手渡ししているとこにちょうど小野坂がやってきた。


「ああ、今ちょうどカツ揚げたてです」


「は?」


「この野郎がカツアゲしたことあんのか聞いてきたからカツアゲしてやったんだ」


「ん? でもさっき鬼島が千円札渡してたよな? もしかしてお釣りか?」


「違え」


「税抜きだ」


「てめえもくだんねえこと言ってんじゃねえ」


 途中で茶々を入れてくる高崎を睨みつける鬼島。


「・・・まああらかた、朔のほうから変なこと言い出しんだろ」


「でもさすが不良。カツアゲ慣れてる」


「ふん。中坊の頃に何度かやったことあっからな」


「やっぱりな」


「そういや初めてカツアゲした野郎は変な野郎だったな。ありゃサラリーマンだったな。『1000円出しな』って言ったらそいつ一万円しかねえときた。俺が『1000円って言ったろうが! 一万円だと釣りを9000円も出さねえといけねえだろ! 俺がそんなに持ってると思ってんのかコラ』って言ってやったらそいつなんつったと思う?『お、思いません・・・』だとよ。なめやがって。どうせ100円玉を何枚くれえかは持ってんだろうと『その場でジャンプしな』ってジャンプさせると案の定だ。小銭の音がしやがってな。小銭を出させて『まだ出んだろ』ってもっぺんジャンプさせるとまだ音がしやがる。出させる。ジャンプさせる。音がする。出させる。繰り返してみたら100円玉が何枚出たと思う?」


「まさか・・・」


「ああ、100枚だ100枚」


「マジかよ・・・」


「しかもそいつ『お釣りは入りません』って行っちまいやがった」


 鬼島は憎々し気に言い放つ。


「あの野郎今度あったらタダじゃおかねえ」


「タダより高いもんはないもんな」

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