フライングスタート
「なあ。なんでフライングスタートってダメなんだろうな?」
「なんでって。勝負にならないからだよ」
高崎朔の疑問に小野坂は当然とばかりに応える。
「でも飛ぶ分には問題なくない?」
「・・・朔、フライングスタートってなにか知ってる?」
「スタートの合図で空に向かって飛ぶんだろ?」
「・・・・・・」
「どうした渉? 固まってるぞ」
「あ、いや。わりい。とりあえずスタートラインに立ってくれ。どういうのか教えっから」
「了解。あ~管制塔管制塔」
「え、なんだって?」
急に高崎朔が口元に手を持っていってまるで無線交信するようにしゃべり始めた。
『こちら管制塔』
「え、誰?」
高崎が一人二役で管制官の役までやり始めおの小野坂は困惑する。
「フライトプラン男子100mの承認をお願いします」
『こちら管制塔。フライトプラン男子100m承認した。ゼッケン番号は1番。風は向かい風0.2m』
「こちらゼッケン1。プッシュバックの許可を」
『こちら管制塔。ゼッケン1、プッシュバックを許可します。使用レーンは第三レーン』
『了解しました。渉、俺を第三レーンまで誘導してください』
「自分で行けよ・・・」
「管制塔。こちらゼッケン1。パワーバックの許可を」
『こちら管制塔。パワーバックを許可する。第三レーンの手前で待機せよ』
「こちらゼッケン1。第三レーンの手前で待機した。タキシングの許可を」
『こちら管制塔。タキシングを許可する。第三レーンのスタートラインに入り待機せよ』
「管制塔。こちらゼッケン1。第三レーンのスタートラインに入った。離陸の許可を」
『ゼッケン1、離陸を許可する。よい旅を』
「なんかさっきっからごちゃごちゃ言ってるけど、位置に着いたか。よ~い――」
「これより滑走を開始する」
「あっ。まだ合図出してねえのに・・・お~い止まれ~!」
「管制塔。こちらゼッケン1。リジェクトテイクオフ! リジェクトテイクオフ!」
『こちら管制塔。了解した。指示があるまで待機せよ』
「こちらゼッケン1。了解した」
「まだなんかごちゃごちゃ言ってんな・・・お~い! 今のがフライングスタートだぞ。それ反則だからな~」
「え、なんで!? 許可は下りてるぞ!?」
「誰が許可したか分からねえが・・・あのなあ、ここが滑走路なら別に構わねえけど、ここは短距離用のトラックだぞ」
「つまり・・・離陸するには距離が足りないと?」
「そういうことじゃねえ・・・それになんださっきの走り方は? 両手を横に広げて走ってたけど」
「エアプレーン走法だけど」
「なにそれ?」
「え、だってこれじゃないと飛び立てないぞ?」
「さっきから見てると、お前は空の便をお楽しみいただきてえのか?」
「ダメか? 陸より空のほうが早いぞ?」
「まあ確かに」
「あともう少しで離陸出来そうだったのになあ」
「プロの短距離選手でも飛び立ったって話聞いたことねえぞ」
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