「『世の中金だ』って聞いたときは、まあそれは仕方ないか思ったけど『地獄の沙汰も金次第』って聞いたときは、あの世の中も金かって驚いた今日このごろ」


「おい。川でやりたいことあるって言うから来たのに、それが言いたかったってオチじゃねえよな?」


 高崎に呼ばれ小野坂は川辺に来ていた。


「ん? 手になに持ってんだ?」


「これ? 桃」


「なんで桃?」


「実は桃を川の上流から流せば大きくなるって聞いたんだ。だからやってみようと思って。俺が上流から流すから下流で待っててくれ」


「待ってるだけかよ」


「あ、洗濯しててもいいぞ」


「それは昔の話だろ」


「そんじゃここで待っててくれ」


「マジかよ・・・」




 小野坂が川に石を投げつけて待っていると上流のほうから桃が流れてきた。


「あ、これか」


 流れてきた桃を見るがまったく大きさは変わっていなかった。




「お~い。どんぶらこ~してきた~?」


 高崎が上流のほうから戻ってきた。


「してきたぞ」


「大きさは」


「まったく変わってなかったぞ」


「あれ~? 聞いた話と違うな~」


 高崎は首をかしげた。


「桃は?」


「は?」


「桃」


「桃?」


「桃。持ってるだろ?」


「あ・・・」


「え・・・」


「「・・・・・・」」


「まだ海には行ってないはず」


「お、おい。探すのか?」


 下流に向かおうとする高崎。


「当然だろ。それに大きくなってるかもしれないし」


「それはねえだろ・・・」




 二人は下流に向かって川沿いを辿っていくと


「あ。あれじゃねえか?」


「ん~? あ、ほんとだ」


 小野坂の指さしたほうを見て高崎も流れていく桃に気づく。


「よし取った」


 高崎は流れてきた桃をさらに下流でキャッチし、素っ頓狂な声をあげた。


「あれ? 大きくない」


「じゃあ『桃は上流から流しても大きくならない』でいいな? っていうかなんだこの小学1年生がやるような夏休みの自由研究みたいなのは」


 あきれ果てる小野坂。


「っかしいな~」


「というかあれは元々あの大きさで流れてきたんだろ。おおかた桃源郷辺りの」


「じゃあ上流に行けば桃源郷が?」


「確かダムだな」

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