昔の話

「俺昔は周りから『神童だ。神童だ』ってよく言われてたんだ。でも今は言われなくなった。たぶんあまりの神っぷりに畏れ多くなったんだと思うけど」


「俺はお前と小さいころからの馴染みだが、それは初耳だぞ」


「最近近所で俺のことでヒソヒソ話してるの耳にしたぞ。『昔は神童だったんだけどねえ・・・』って。今じゃ成長して神だからなあ。表立って言えなくなったのもしょうがないか」


「勘違いが神がかってる」




「覚えてる? 小学校のときに狼がいたよな」


「ああ~。いたな~狼」


 高崎の言葉に小野坂は懐かしむように言った。


「あれだろ。『満月見たら狼に変身出来る』って言ってた奴だろ?」


「そう。そいつ」


「じゃあ出来てもらうかってことになったんだよな。で、中々出来ねえし『今日はそういう気分じゃない』って、なかったことになったよな。っつか、そういう気分ってどういう気分なんだ?」


「というか気分じゃ月関係ない」


「あ、確かに」


「そのあとも出来るって言い張ってたよな」


「というか吠えてたな」


「今思うと、ある意味狼少年になれてた」




 2人は学校からの帰宅道の河原沿いを歩きながら昔の話で花を咲かせていると前方から歩いてくる人を見つけてなにか想い出した。


「おい渉。見ろあの人」


「ん?」


「あの人って確か~、荻原おぎわらじゃないか?」


「ん~? いやあれは萩原はぎわらだろ」


「いや荻原だろ」


「いや萩原だ」


「荻原」


「萩原」


「あれ~? 高崎に小野坂じゃん。久しぶり~」


 2人がどっちの名前かで言い争っていると前方から歩いてきた人物が二人に気づいて声をかけた。


「って、相変わらず仲がいいねお前ら~。で、なに話てんの?」


「今、お前が荻原なのか? 萩原なのか? って荻原萩原論争してたんだ」


 昔のクラスメイトに目もくれず二人は睨みあう。


「言ってやってくれ荻原。荻原だってこと」


「なに言ってんだ朔。こいつは萩原だ。そうだろ萩原?」


「・・・・・・お前ら」


 2人の論争についに決着が訪れる。


「俺は・・・・・・山下だぞ」 

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