握手
「女子と手を繋ぐためにはどうすればいいですか? 『アームレスリングをやればいい』っていうのはナシでお願いします」
高崎朔は真剣な様子で二階堂叶に尋ねていた。
「君には彼女がいるのかい?」
二階堂は涼しげに言った。
「いません」
「ふむ」
二階堂は顎に手をやり少し考えてから静かに語り始めた。
「前に付き合っていた子でね、デートで握手会に行きたいって子がいたんだ。彼女とはまだ手を繋いだことがなかったからこのデートを機に手を繋ごうと考えてたんだ。そして彼女と一緒に行った握手会はなんと握力200を誇る男の握手会だったんだ。その男は世界各国の首脳陣にも握力指導をしている人で、ほらよく見るだろう。首脳会談で首脳陣が報道陣の前でにこやかに握手するシーンを。あれは水面下では握力勝負してるのさ。
その指導者でもある男との握手会で彼女の番が来たとき彼女は男にこうはっきりと言ったんだ」
『全力でお願いします』
「男は最初にこやかに彼女に対応していたけど握手をして少しすると、顔が驚愕していくのが分かったよ。彼女はにこやかに握手していたけどね。握手会をあとにした後彼女はボソッとつぶやいたんだ」
『こんなもんか』
「僕はその言葉聞いた瞬間自分の手の危うさを感じてしまってね。申し訳ないことだけどデートを早めに切り上げようとしたんだ。すると彼女は僕の袖を親指と人差し指で掴んできたんだ。袖を軽く掴んで引き留めるなんて彼氏としては嬉しいことだけど、僕は身の危険を感じていたから袖を振り払おうとしてしまったんだ。でもね、僕の腕が微動だにしないんだ。どんなに振り払おうとしても全くと言っていいほど微動だにしないんだ。この意味が分かるかい? そう。彼女はとてつもないピンチ力の持ち主でもあったんだ」
二階堂は自分の手を見つめながら静かに話を続ける。
「結局、別れることにはなったけど、手を繋いでたら、ましてや恋人つなぎをしていたら僕の手は今頃使い物にならなかったかもしれないね」
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