生粋
「鬼島は今までにケンカで負けたことはあるのか?」
相も変わらず机に足を投げ出して腕を組んで座る
「おい委員長よお。誰にその口きいてやがる。生まれてこの方負けたことねえよ」
「へえ」
「ただ口喧嘩だけは得意じゃねえがな。まあ、口で言ってくる野郎は二度とその口を開けねえようにしてやるがな。ケンカってのは殴ってなんぼって勘違いした野郎がいやがるが、そうじゃねえんだよ。いいか。ケンカってのは頭も使うんだ頭もよ」
「そうだったのか」
「殴る蹴る以外に頭突きがあんだろ頭突きがよ」
「そっちの頭か」
「頭にきたら頭突きしてやれ」
「なあ。カツアゲしたことってあるか?」
「誰だてめえ?」
話に割って入ってきた高崎朔を鬼島は睨みつけた。
「ああ。こいつは俺の幼馴染の高崎朔だ」
「よろしく。ああ不良だと『夜露死苦』だったか?」
「あ? なめてんのかてめえ」
鬼島は立ち上がり高崎の胸倉を掴んだ。
「おいよせって」
小野坂が仲裁に入るが鬼島は手をほどく様子はない。
「いいか? 言っとくがなあ、『夜露死苦』は画数が多くて面倒くせえんだ。そこんとこよろしくだコラ」
そう鬼島は言い放つと高崎の胸倉を掴む手を解いて不機嫌そうに席に座りまた机に足を投げ出した。
「人生で初めて胸倉掴まれた」
「ったく・・・」
あっけからかんと言う高崎に小野坂は呆れる。
「そういえば隣のクラスにも只者じゃない奴がいるみたいだぞ。鬼島は知ってるか?」
「はっ。知らねえな。たまにいんだよな。只者じゃない風を装う野郎ってのは。だがそういう野郎に限って、只者なんだよな」
「装うだけでもなかなかだと思うが」
「けっ。装うだけはタダだからな。だがな、タダほど安いもんはねえ。いつか高くつくことになんぜ」
「なあ」
「あん? またてめえか」
高崎がまた話に入ってきて鬼島は面倒くさそうにする。
「なあ。不良って叩き上げでなるもん?」
「中にはそんな野郎もいる。だが俺は小坊の頃から良くねえ」
「良くない?・・・ああ、不良ってことか」
「俺は生粋なんだ」
「おい委員長。俺の良い噂っての聞いたことねえよなあ?」
「ああ。ついぞ聞いたことねえな」
「どうよ」
「なる」
なぜか得意げな鬼島だが、それに納得する高崎。
「悪い噂しか聞いたことねえもんな」
「噂ってのは一人歩きするもんらしいが、俺の噂は歩くどころか駆け巡ったぜ。おかげで一日中くしゃみしっ放しで一時は大変だったくらいだ。勘違いした野郎に『不良ってのはマスクをするもんだ』ってほざく野郎がいたが、俺のはホントに必要だったぜ。おかげで『風邪っぴき』って異名がついたくらいだ」
◇◇◇◇
「鬼島ってほんとに不良なのかな?」
「お前、昨日胸倉掴まれたこと忘れたのか?」
「今でもそのときの感触を覚えてるぞ」
「なんだその恋の予感みたいな言い方は」
「で、鬼島は? さっき授業中いなかったけど」
「ああ、あいつならサボりだな。どうせ学校の屋上にでもふけこんでるんだろ。って、噂をすれば戻ってきたな」
「ほんとに不良かどうか聞いてみるか」
「そんなことして。殴られんぞ」
「そしたら本物だ」
「お~い鬼島」
「あ? んだコラ。気安く話しかけてきてんじゃねえよ」
「わり。それでさ鬼島――」
高崎が頭にたんこぶを作って戻ってきた。
「いやあ本物だわ~」
「なにやってんだ・・・」
「鬼島」
「チッ。またてめえか」
「さっきまでサボってたのか?」
「あ? だからなんだよ?」
「サボるってフランス語で言うサボタージュだよな?」
「あん?」
「サボるってフランス語で言うサボタージュだよな?」
また席に戻ってきた高崎。
「やっぱ本物だわ」
「お前鬼島になに言ったんだ? たんこぶが3段アイスクリームみたいになってんじゃねえか」
「いやフランス語言ったら殴られた」
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